個人事業主が12月までにできる節税 — 年内に効く経費の前倒し・40万円未満の備品・小規模企業共済と経営セーフティ共済の年内払い、効かない在庫の買い込み
「12月までに何かしておけば、来年の税金は減らせるのだろうか」— 年末が近づくと、個人事業主の方からこうした声が増えます。本記事では、年内に動けば効くものと、動いても効かないものを、根拠の条文つきで分けて整理します。
この記事の要点
- 年内に効く経費は、12月31日までに債務が確定したものです。前払いしただけでは入らず、未払いでも確定していれば入ります(所得税法37条1項・所得税基本通達37-2)
- 青色申告の個人事業主は、取得価額40万円未満の備品を買って年内に使い始めれば、年300万円(開業・廃業の年は月数で按分)まで全額をその年の必要経費にできます(租税特別措置法28条の2第1項)
- 小規模企業共済・iDeCoの掛金はその年に支払った分が所得控除になり(所得税法75条1項)、経営セーフティ共済の掛金は支出した日の属する年分の必要経費になります(租税特別措置法28条1項2号)。所得控除では国民健康保険料は下がりません(国民健康保険法施行令29条の7第2項4号)
まず結論 — 年内に効くのは「必要経費」と「所得控除」の2本道で、効き方が違う
節税の打ち手は、事業所得そのものを減らす「必要経費」と、所得から引く「所得控除」の2つに分かれます。必要経費は所得税・住民税だけでなく国民健康保険料にも効きますが、所得控除は所得税と住民税に効くだけで、国民健康保険料の所得割には効きません。所得割は、基礎控除だけを引いた「基礎控除後の総所得金額等」で計算するためです(国民健康保険法施行令29条の7第2項4号)。
ただし、国民健康保険料には賦課額の上限があり、所得が高く保険料が上限に達している方は、必要経費を増やしても上限を下回るまでは保険料が下がりません(国民健康保険法施行令29条の7第2項9号)。
| 打ち手 | 区分 | 条件 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 12月までに債務が確定した経費 | 必要経費 | 支払いの有無でなく、12月31日までに債務が成立し、金額を算定できること | 所得税法37条1項・所得税基本通達37-2 |
| 家賃・保険料などの1年分の前払い | 必要経費 | 支払日から1年以内に受ける役務で、毎年同じ処理を続けること | 所得税基本通達37-30の2 |
| 取得価額40万円未満の備品 | 必要経費 | 青色申告の中小事業者が年内に業務に使い始める。年300万円(開業・廃業の年は月数で按分)まで・明細書の添付 | 租税特別措置法28条の2 |
| 経営セーフティ共済の掛金 | 必要経費 | 支出した日の属する年分の事業所得の必要経費 | 租税特別措置法28条1項 |
| 小規模企業共済・iDeCoの掛金 | 所得控除 | その年に支払った掛金の全額 | 所得税法75条 |
| 国民年金・国民健康保険の保険料 | 所得控除 | その年に支払った額 | 所得税法74条 |
| ふるさと納税などの寄附 | 所得控除 | 2,000円を超える部分。総所得金額等の40%が上限 | 所得税法78条1項 |
表に無い打ち手で相談の多いのが、在庫の買い込みと家族への支払いです。どちらも年内に動いても効かないので、理由は後ろの節で書きます。ご自身は今年、どちらの区分の打ち手を使えるでしょうか。まずは表で当たりをつけてみてください。
経費の前倒し — 線は「払った日」ではなく「債務が確定した日」
12月に支払ったかどうかは、経費になるかの線ではありません。線は債務の確定で、12月31日までに債務が成立し、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生し、金額を合理的に算定できる、この3つを満たした費用がその年の必要経費です(所得税法37条1項・所得税基本通達37-2)。12月に納品を受けた仕入れや外注費は、支払いが1月でも今年の経費に入ります。
原則
その年の必要経費に入るのは、12月31日までに債務の確定した費用です(所得税法37条1項・所得税基本通達37-2)。前払いした費用のうち、12月31日にまだ提供を受けていない役務に対応するものは、その年分の必要経費に算入されません。
所得税基本通達37-30の2
ただし
支払日から1年以内に提供を受ける役務の前払費用は、継続してその支払った年分の必要経費にしていれば、その年の必要経費として認められます。
所得税基本通達37-30の2
この「ただし」が、家賃や保険料、サーバー代などを年払いにする手です。条件は、一定の契約に基づいて継続的に受ける役務であること、支払日から1年以内の役務であること、毎年同じ処理を続けることの3つです(所得税基本通達37-30の2)。今年だけ年払いにして来年は月払いに戻す使い方は、継続の条件から外れます。税理士の顧問料やコンサルティング料のように、月ごとに中身や金額が変わる費用は、1年分をまとめて払ってもこの取扱いにはなじまないと考えています。
備品の購入 — 40万円未満なら、年内に使い始めた分を全額
原則
青色申告の中小事業者が取得価額40万円未満の減価償却資産を取得し、年内に業務の用に供したときは、取得価額の全額をその年の必要経費にできます。1年の合計は300万円までです。
租税特別措置法28条の2第1項
ただし
業務を開始した年と廃止した年の上限は、300万円を12で割り、その年に業務を営んでいた期間の月数を掛けた額です。
租税特別措置法28条の2第1項
対象は令和11年3月31日までの取得分で、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付した場合に限られます。
租税特別措置法28条の2第1項・3項
大切なのは「買った日」ではなく「使い始めた日」です。12月に注文しても、納品と使用の開始が1月なら今年の経費には入りません。10万円未満のものは、特例を使わなくてもその年の経費になります(所得税法施行令138条1項)。この特例が意味を持つのは、10万円以上40万円未満のパソコンや机、工具などです(租税特別措置法28条の2第1項)。
共済と年金 — 年内に払った分が効く。前納の手続きは締切から逆算して早めに
小規模企業共済の掛金は、その年に支払った全額が小規模企業共済等掛金控除になります(所得税法75条1項・2項1号)。中小機構の案内では、1年以内の前納掛金も同じように控除できるとされています。iDeCoの掛金も同じ控除の対象です(所得税法75条2項2号)。どちらも所得控除なので、国民健康保険料は下がりません。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の掛金は所得控除ではなく、支出した日の属する年分の事業所得の必要経費です(租税特別措置法28条1項2号)。年内に1年分を前納すれば、その分も支出した年の必要経費に入ります。事業所得の必要経費なので、国民健康保険料にも効きます。
前納の手続きは、どちらも締切から逆算して早めに出しておきましょう。経営セーフティ共済は、中小機構の案内にある毎月5日の必着と毎月27日の口座振替から逆算し、12月5日までに中小機構へ届くよう11月のうちに手続きを出すことをお勧めします。小規模企業共済も手続きごとに締切日があるので、年内の引き落としに間に合うかを先に確かめてみてください。
効かない打ち手 — 家族への支払い、自分への給与、翌年に回しただけの支出
生計を一にする配偶者や親族に払う給与・家賃は、必要経費になりません(所得税法56条)。例外は青色事業専従者給与で、届出書に書いた方法と金額の範囲で、労務の対価として相当な額が必要経費になります(所得税法57条1項)。12月に思い立って家族に給与を払っても、届出が無ければ効きません。
自分への給与という考え方も、個人事業にはありません。事業用の口座から生活費を引き出しても、家事上の費用として必要経費には入りません(所得税法45条1項1号)。所得税・住民税も必要経費にならず(所得税法45条1項2号・4号)、国民健康保険料は社会保険料控除の対象です(所得税法74条2項2号)。
12月までの進め方
11月末までの数字を締める
売上と経費を集計し、今年の所得の見込みと来年の見込みを並べる
債務の確定する経費を拾う
12月中に納品や役務の提供を受けるものを確かめ、請求書を手元に集める
共済の手続きを先に出す
経営セーフティ共済は毎月5日に中小機構必着。小規模企業共済も締切日を確かめる
備品は年内に使い始める
納品だけでなく使用の開始まで12月中に済ませ、明細書の添付を忘れない
年内の打ち手を選ぶ土台は、今年の所得の見込みです。帳簿が11月まで追いついていない方は、まず弊所の個人事業主の決算・確定申告準備診断ツールで、残っている準備を整理してみてください。確定申告ごと依頼する場合の進め方と料金は、このサイトの確定申告のページで確かめられます。掛金をいくらにするかは、このサイトの小規模企業共済の案内と経営セーフティ共済の案内に書きました。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法37条(必要経費)・45条(家事関連費等の必要経費不算入等)・47条(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)・56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)・57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)・74条(社会保険料控除)・75条(小規模企業共済等掛金控除)・78条(寄附金控除)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令3条(棚卸資産の範囲)・138条(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法28条(特定の基金に対する負担金等の必要経費算入の特例)・28条の2(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)
- 国税庁 所得税基本通達37-2(必要経費に算入すべき費用の債務確定の判定)
- 国税庁 所得税基本通達37-30の2(短期の前払費用)
- e-Gov法令検索 地方税法341条(固定資産税に関する用語の意義)
- e-Gov法令検索 地方税法施行令49条(償却資産から除く少額の資産)
- e-Gov法令検索 国民健康保険法施行令29条の7(保険料の所得割額の算定)
- 国税庁タックスアンサー No.1135 小規模企業共済等掛金控除
- 国税庁タックスアンサー No.1130 社会保険料控除
- 中小機構 小規模企業共済の掛金(前納掛金の控除・手続きの締切)
- 中小機構 経営セーフティ共済の掛金(前納・手続きの締切・口座振替日)
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