12月に開業したら、その年の確定申告は必要? — 売上ゼロでも出す意味 (青色申告の承認・開業費・赤字の繰越)、1月開業との違い、住民税と国保の申告
「12月に開業届を出したばかりで、売上はまだゼロ。この年の確定申告は要るのだろうか」— そんな質問を、年末に独立した方から受けることがあります。所得税の確定申告が義務になるのは、原則として、所得の合計が所得控除の合計を超え、そこに税率を掛けた税額が配当控除の額を超えるときです(所得税法120条1項)。
ただし、会社に勤めながら開業した方には、もう一つの基準があります。1か所から受けるその年の給与が2,000万円以下で、その全部に源泉徴収か年末調整がされていれば、給与所得・退職所得以外の所得が20万円以下の年は、原則として所得税の確定申告書を出す必要はありません(所得税法121条1項1号)。
20万円以下かどうかは、申告を条件とする特例(55万円・65万円の青色申告特別控除など)を使わずに計算した金額で判定します。開業したばかりで所得が小さい年には、どちらの基準でも義務が無いことが多いでしょう。とはいえ「出さなくてよい」と「出さない方がよい」は別の話で、出すことで初めて守れるものがあります。
この記事の要点
- 12月に開業した年は、所得が所得控除より小さければ確定申告の義務はありません(所得税法120条1項)。それでも、青色申告の承認申請を開業から2か月以内に出し、その年分を申告しておくと翌年以後の土台になります(所得税法144条)
- 開業した年の赤字(純損失)を翌年以後3年間に繰り越せるのは、青色申告でその年分の確定申告書を出し、以後も続けて申告している人です(所得税法70条1項・4項)。申告しなかった年の赤字は使えません
- 確定申告をすれば区への住民税の申告は要りません(地方税法317条の3第1項)。確定申告をしない年は、区への住民税の申告が要ることがあります(地方税法317条の2第1項)
まず結論 — 義務が無くても、出しておく意味が3つある
売上ゼロの年に申告書を出す意味は、翌年以後に効いてきます。開業した年分を青色申告書で出せる人は、税務署長の承認を受けた人です(所得税法143条)。その承認の申請、開業前に使ったお金の整理、赤字の繰越しの3つが、初年度の申告書に載せて初めて形になります。
| 出す意味 | 何が守れるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 青色申告の承認 | 開業した年分から青色で申告できる。申請の期限は開業の日から2か月以内 | 所得税法143条・144条 |
| 開業費の残高 | 開業準備のために特別に支出した費用は繰延資産。その年に落とす額を、繰延資産の額の範囲内で申告書に書いて決められる | 所得税法施行令7条1項1号・137条3項 |
| 赤字の繰越し | 開業した年の純損失を翌年以後3年間の所得から引ける。申告書を出した年の赤字だけが対象 | 所得税法70条1項・4項・123条1項 |
このほか、会社を辞めた年の給与や源泉徴収された報酬があれば、申告で納め過ぎの所得税が戻ることがあります(所得税法122条1項・138条1項)。この還付のための申告は、確定申告の期間とは関係なく、翌年1月1日から5年間出せます。還付金を請求する権利は、請求できる日から5年間使わないと時効で消えます(国税通則法74条1項)。
ただし、55万円・65万円の青色申告特別控除など、期限内の申告が条件の特例を使うなら、還付のための申告でも翌年3月15日までに出す必要があります。青色申告特別控除では、貸借対照表と損益計算書を申告書に添えることも条件です。それより先に締まるのが、青色の承認申請の期限です。ご自身の開業日から数えて、2か月以内はいつまででしょうか。
青色申告の承認申請 — 12月開業の期限は年明けに来る
では、青色の承認申請はいつまでに出せばよいのでしょうか。その年の1月16日以後に新しく業務を始めた人は、業務を開始した日から2か月以内に、納税地の所轄税務署長へ申請書を出します(所得税法144条)。12月に開業した人なら、期限は翌年の1月末から2月末のあいだに来ます。確定申告の準備に取りかかる前に締まる人が多いので、開業届と一緒に出しておくと安心です。
原則
開業した年分から青色申告をするには、開業の日から2か月以内に承認申請書を出します。
所得税法144条
ただし
期限を過ぎたときは、翌年分から青色にする申請を翌年3月15日までに出せます。開業した年分は白色申告になります。
所得税法144条・143条
開業費と赤字 — 申告書に載せて初めて「使える数字」になる
開業前に、開業準備のために特別に支出した費用は「開業費」という繰延資産です(所得税法施行令7条1項1号)。ただし、開業前の支出でも、備品などの資産の取得に要した費用と前払費用は開業費に入りません(所得税法施行令7条1項)。落とし方は、60か月で均等に落とす方法と、落とす年と額を自分で決める任意償却のどちらかです(所得税法施行令137条1項1号・3項)。
原則
任意償却には下限が無いので、売上ゼロの年は償却費をゼロにして残高を持ち越し、黒字になった年に落とすことができます。
所得税法施行令137条3項
ただし
額を自分で決められるのは、その額をその年分の確定申告書に書いた場合で、書かない年は60か月で均等に落とす計算の額がその年の償却費になります。
所得税法施行令137条1項1号・3項
60か月を過ぎてからでも、まだ落としていない額は必要経費にできます。ただし、使えるのは「どの費用が開業費で、まだ落としていない額がいくらか」が分かる場合です。開業費の内容と金額、まだ必要経費にしていない額が分かる一覧を初年度から残しておきましょう。領収書と一覧は、申告書の控えと一緒に保存してみてください。
開業後の12月に家賃や通信費、備品の減価償却費が出て、売上がゼロなら事業所得は赤字です。事業所得の赤字は、その年の給与所得などほかの所得から差し引きます(損益通算・所得税法69条1項)。差し引いてもなお残る赤字が純損失で、繰り越せるかどうかは青色か白色かで分かれます。
原則
純損失は、青色申告書を提出した年に生じたものに限り、翌年以後3年間繰り越して各年の所得から控除できます。
所得税法70条1項
ただし
白色申告でも、変動所得の計算上生じた損失と被災事業用資産の損失に係る純損失は繰り越せます。
所得税法70条2項
繰越しは、純損失が生じた年分の確定申告書を出し、その後も連続して確定申告書を出している場合に限られます(所得税法70条4項)。純損失が生じた年分は、損失申告用の申告書を出します。
所得税法123条1項
1月開業との違い — 期限の数え方と、月割になるもの
12月開業と1月開業で、決まりそのものは変わりません。違うのは期限の数え方と、月割になるものです。
| 項目 | 12月開業 | 1月開業 |
|---|---|---|
| 青色申告の承認申請の期限 | 開業の日から2か月以内。翌年1月末〜2月末に来る(所得税法144条) | 1月1日〜15日の開業はその年の3月15日まで、1月16日以後は開業の日から2か月以内(所得税法144条) |
| 開業届の期限 | 開業した年分の確定申告期限(翌年3月15日)まで(所得税法229条) | 同じ。開業した年の翌年3月15日まで(所得税法229条) |
| 開業前の準備費用 | 開業するまでの間に特別に支出した費用が開業費(所得税法施行令7条1項1号) | 同じ。前の年に払った分も開業費 |
| 個人事業税の事業主控除 | 事業を行った月数で月割。1か月なら290万円の12分の1(地方税法72条の49の14第2項) | 1月から事業を行っていれば満額の290万円(地方税法72条の49の14第1項) |
個人事業税の事業主控除は年290万円ですが、事業を行った期間が1年に満たないときは、事業を行った月数で月割になります(地方税法72条の49の14第1項・2項)。12月開業の年は控除が1か月分に縮みますが、その年の所得も1か月分なので、控除を超える所得が出ることはまれです。
住民税と国保の申告 — 確定申告をすれば区への申告は要らない
住民税(特別区民税・都民税)は、1月1日に住んでいる区に前年の所得を申告する仕組みで、期限は所得税と同じ3月15日です(地方税法317条の2第1項)。所得税の確定申告書を出した人は、その日に住民税の申告書を出したものとみなされるので、区への申告は別に要りません(地方税法317条の3第1項)。確定申告をしない年に、区の申告が要るかどうかが問題になります。
原則
区内に住所がある人は、3月15日までに住所地の区へ住民税の申告書を出します。
地方税法317条の2第1項
ただし
給与支払報告書が出ている給与だけの人や、所得割の納税義務を負わないと認められる人のうち区の条例で定める人は、申告しなくてよいとされています。
地方税法317条の2第1項ただし書
12月開業の年の申告は、数字こそ小さいものの、青色の承認・開業費の残高・赤字の繰越しという翌年以後の土台を決めます。開業した年の申告に何が残っているかを整理するには、弊所の個人事業主の決算・確定申告準備診断ツールをお勧めします。初年度から申告を頼む場合の料金と進め方は、このサイトの確定申告のページで確かめてみてください。開業1年目の申告全体の流れは、このサイトの開業1年目の確定申告の記事に書きました。
※日付は令和8年(2026年)の12月に開業した方の例です。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法69条(損益通算)・70条(純損失の繰越控除)・120条(確定所得申告)・121条(確定所得申告を要しない場合)・122条(還付等を受けるための申告)・123条(確定損失申告)・138条(源泉徴収税額等の還付)・143条(青色申告)・144条(青色申告の承認の申請)・229条(開業等の届出)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令7条(繰延資産の範囲)・137条(繰延資産の償却費の計算)
- e-Gov法令検索 国税通則法74条(還付金等の消滅時効)
- e-Gov法令検索 地方税法72条の49の14(事業主控除)・317条の2(市町村民税の申告等)・317条の3
- 国税庁タックスアンサー No.2020 確定申告
- 国税庁タックスアンサー No.2070 青色申告制度
- 国税庁タックスアンサー No.2030 還付申告
- 国税庁タックスアンサー No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき
- 国税庁 質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」
- 江東区 特別区民税・都民税の申告について
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