フリーランスの確定申告で税金が戻る仕組み — 報酬の源泉徴収10.21%と支払調書、還付になる計算
「請求額より1割少なく振り込まれた。この差額は戻るのか」— 報酬から源泉徴収されているフリーランスの方に向けて、天引きの仕組み、還付になる計算、支払調書の扱いを整理します。令和8年分(2027年2月16日から3月15日に申告する分)に使える形で書きます。
この記事の要点
- 原稿料・デザイン料・講演料など法律に列挙された報酬は、支払う側が所得税を天引きして国に納める(所得税法204条1項・205条1号)。天引きの率は所得税が100分の10(1回の支払が100万円を超える部分は100分の20)で、これに復興特別所得税が上乗せされる(所得税法205条1号)
- 天引きされた税は前払いで、確定申告で1年分の所得税から差し引き、引ききれない分は還付される(所得税法120条1項4号・138条1項)。還付を受けるためだけの申告は、翌年1月1日から5年間出せる(所得税法122条1項・国税通則法74条1項)
- 支払調書は支払う側が税務署に出す書類で、本人に届かなくても請求書と入金の記録で申告できる(所得税法225条1項)。令和9年1月以後の報酬には防衛特別所得税が加わるが、天引きの合計の率は変わらない(国税庁の防衛特別所得税のQ&A Q1)
源泉徴収の仕組み — 支払う側が天引きして納める
フリーランスの報酬が請求額より少なく振り込まれるのは、支払う側に源泉徴収の義務があるためです。対象は所得税法と施行令に列挙された報酬に限られます(所得税法204条1項1号・所得税法施行令320条1項)。原稿、さし絵、作曲、デザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料、講演料のほか、翻訳・通訳・校正や、雑誌や広告などの印刷物に載せる写真の報酬が入ります。
弁護士や税理士などの業務の報酬も対象です(所得税法204条1項2号)。ウェブサイトの制作やプログラミングそのものの対価は、この列挙に入っていないと見ています。ただし、制作の中にデザインの報酬が含まれていれば、その部分は対象です(所得税法204条1項1号)。
謝礼や取材費、車代といった名目で払われても、実態が原稿料や講演料と同じなら対象です(所得税基本通達204-2)。一方、支払う側が給与を払っていない個人であれば、報酬から源泉徴収はされません(所得税法204条2項2号)。請求書に消費税を区分して書いていれば、税抜の報酬の額だけを対象に計算してもらえます(国税庁の個別通達 平元直法6-1)。
| 1回の支払金額 | 天引きされる率 | 計算 |
|---|---|---|
| 100万円以下 | 10.21% | 支払金額×10.21% |
| 100万円超 | 100万円を超える部分は20.42% | (支払金額−100万円)×20.42%+102,100円 |
1円未満の端数は切り捨てます。令和9年1月以後の支払は復興特別所得税が1.1%に下がり、防衛特別所得税1%が加わりますが、合計の率は変わりません(国税庁の防衛特別所得税のQ&A Q1)。
還付になる計算 — 1年分の所得税より天引きが多ければ戻る
確定申告では、1年分の収入から費用と所得控除を引いて所得税を計算し、そこから源泉徴収税額を差し引きます(所得税法120条1項3号・4号)。差し引いて引ききれない分が還付です(所得税法138条1項)。ただし、支払う側が天引きした税を国に納めていない部分は、納められるまで還付されません(所得税法138条2項)。源泉徴収は所得控除を考えずに率だけで天引きするので、所得の小さい年ほど戻る額は大きくなると考えています。
令和8年分の基礎控除は、62万円に令和8年分と令和9年分の加算42万円を足した104万円です(合計所得金額が一定以下の人。所得税法86条1項1号・租税特別措置法41条の16の2第1項1号)。天引きの合計がこの控除の効果を上回る年は、申告すれば戻ります。ご自身の令和8年の天引きの合計はいくらでしょうか。
所得が基礎控除を超える人も、計算した所得税が天引きの合計より少なければ、差額が戻ります。逆に、所得が大きい年は、計算した所得税が天引きの合計を上回り、その差額を申告で納めます(所得税法120条1項4号)。どちらになるかは申告書を作って初めて分かるので、天引きの合計を先に集計しておきましょう。
原稿料やデザイン料などの所得は、事業として行っているものを除き、業務に係る雑所得です(所得税基本通達35-2)。雑所得では青色申告が使えません(所得税法143条)。区分の考え方は、別の記事「会社員の副業の確定申告」にまとめています。
上の例の65万円の控除は、事業所得で青色申告をしていて、取引を詳しく記録した帳簿を備えた人が、下の「期限と還付の時期」で触れるe-Taxでの送信などの条件を満たしたときのものです。所得税法67条1項には、小規模事業者が、その年に収入した金額と支出した費用の額で所得を計算できる特例(いわゆる現金主義)があります。ただし、この現金主義の特例の適用を受けている人は、帳簿を備えていても対象外です(租税特別措置法25条の2)。
支払調書 — 支払者が税務署に出す書類で、申告書への添付は要らない
支払調書は、報酬を支払った側が「誰に、年間いくら払い、いくら源泉徴収したか」を税務署に報告する書類です(所得税法225条1項3号)。本人に支払調書を交付する義務は、法律にはありません(所得税法225条1項・2項)。届いていなければ、請求書と入金の記録、帳簿をもとに申告書を作りましょう。確定申告書に支払調書を添付する必要もありません(所得税法120条3項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出す人 | 報酬を支払った会社や個人事業主 |
| 出す先 | 支払者の所轄税務署(本人への交付は義務ではない) |
| 出す範囲 | 同じ人への年間の支払金額の合計が50,000円を超えるもの |
| 期限 | 支払の確定した年の翌年1月31日 |
| 本人への写し | 交付する場合も、マイナンバーは記載できない |
支払調書の金額と自分の売上が合わないことも珍しくありません。支払調書にはその年中に支払の確定した金額が書かれるので、支払者の集計の時期と自分の帳簿の売上の計上時期が合わず、年をまたぐ仕事があるとずれることがあると見ています。消費税を含めて集計されていることもあります。申告は自分の帳簿を正として行い、源泉徴収税額は請求書ごとの控えと入金額の差で確かめることをお勧めします。
期限と還付の時期 — 還付申告は1月から出せる
年間の所得税より源泉徴収税額が多く、還付になる人は、確定申告書を出す義務がありません(所得税法120条1項)。還付を受けるための申告書は、翌年1月1日から5年間出せます(所得税法122条1項・国税通則法74条1項)。2月16日を待たずに出せるので、早く出した分だけ還付も早く届くと見ています。
ただし、令和8年分の青色申告特別控除の65万円は、e-Taxでの送信か優良な電子帳簿の保存のどちらかと、提出期限までの申告が条件です(租税特別措置法25条の2)。還付になる人でも、この控除を使うなら申告の期限の3月15日までに出します(所得税法120条1項)。令和9年分からは、提出期限までにe-Taxで出すことが65万円の条件になります(租税特別措置法25条の2。令和9年1月1日施行の改正後)。
還付金には、還付加算金が付くことがあります。期限内に出した申告書なら期限の翌日から、期限後に出した申告書ならその提出の日の翌日から、支払決定の日までの日数で計算します(所得税法138条3項)。割合は法律で決まった年の割合で(国税通則法58条1項・租税特別措置法95条)、受け取った加算金は雑所得です(所得税基本通達35-1)。
既に還付申告をした年分について、源泉徴収税額の書き忘れに気づいたときは、更正の請求で直せます(国税通則法23条1項・所得税基本通達122-1)。期間は、その申告書を提出した日から5年以内です。
原則
報酬から源泉徴収された税額は、その年分の所得税の額から差し引き、引ききれない分は還付されます。
所得税法120条1項4号・138条1項
ただし
支払う側が給与を払っていない個人のときは、報酬から源泉徴収されません。
所得税法204条2項2号
支払う側が天引きした税を国に納めていない部分は、納められるまで還付されません。
所得税法138条2項
まとめ — 申告までの手順と期限
令和8年分の還付申告まで
源泉徴収税額を集計する
請求書の控えと入金額の差を支払者ごとに一覧にする。支払調書が届けば突き合わせる
収入と費用をまとめる
売上は天引き前の請求額で計上し、費用の領収書をそろえましょう
所得控除の証明書をそろえる
国民健康保険と国民年金の支払の記録、生命保険料の控除証明など
申告書を作る
第二表の所得の内訳に支払者ごとの収入と源泉徴収税額、第一表に合計を書く
提出して還付を待つ
1月1日から出せる。青色申告特別控除の65万円を使うなら、3月15日までに出す
令和8年分の還付申告
- 2027年1月1日還付を受けるための申告書を出せる最初の日
- 2027年1月31日支払者が支払調書を税務署へ出す期限。本人に届くのはこれより後になることが多い
- 2027年2月16日確定申告の受付が始まる(所得税法120条1項)
- 2027年3月15日納める税が出る人の申告と納付の期限。青色申告特別控除の65万円を使う人も、この日までに出す
- 2031年12月31日令和8年分の還付申告を出せる最後の日(国税通則法74条1項)
還付になる年ほど、申告を後回しにしがちです。
天引きの合計を先に集計しておくと、申告書の作成はぐっと速くなります。年が明けたら、請求書の控えを並べるところから始めてみてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき
- 国税庁 タックスアンサー No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
- 国税庁 タックスアンサー No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者
- 国税庁 タックスアンサー No.2030 還付申告
- 国税庁 タックスアンサー No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等
- 国税庁 防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A(令和8年5月)
- 国税庁 個別通達 消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて(平元直法6-1)
- e-Gov法令検索 所得税法86条(基礎控除)・120条(確定所得申告)・122条(還付等を受けるための申告)・138条(源泉徴収税額等の還付)・143条(青色申告)・204条(源泉徴収義務)・205条(徴収税額)・225条(支払調書及び支払通知書)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令320条(報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)・41条の16の2(基礎控除等の特例)・95条(還付加算金の割合の特例)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(令和9年1月1日施行・令和8年法律第12号による改正後)
- e-Gov法令検索 国税通則法23条(更正の請求)・58条(還付加算金)・74条(還付金等の消滅時効)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。基礎控除の額は、令和8年12月1日施行の改正後の所得税法86条と租税特別措置法41条の16の2(令和8年分・令和9年分は合計所得金額489万円以下で104万円)で書いています。弁護士・司法書士などの報酬の計算の細かい違い、非居住者への支払、給与の源泉徴収は扱っていません。
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