事前確定届出給与を含めた役員報酬の年間計画 — 月給と賞与の12か月の払い方を、生活費と会社に残る利益で確かめる
「来期の役員報酬は、毎月いくらにして、賞与を出すならいつにするか」— 役員報酬の払い方を決める社長の方に向けた記事です。同じ年間の総額を毎月均等に払う案と、月給と年1回の賞与に分ける案を、社会保険料・手取り・会社に残る利益の3つで比べ、12か月の支払い予定表の作り方を整理します。
この記事の要点
- 年間600万円を毎月50万円で払う案と、月30万円+賞与240万円で払う案では、本人負担の社会保険料に年約8.2万円、手取りに年約6.6万円の差が出る(40歳未満・令和8年度の弊所試算)
- 賞与の月は、源泉所得税が賞与の算出率で決まり、社会保険料も賞与分がまとめてかかる。住民税は市区町村が決めた年税額の12分の1で、賞与の月も変わらない
- 賞与を事前確定届出給与にするなら、届け出た日と額のとおりに払わないと全額が損金にならない。12か月の予定表で賞与の月の資金を先に確保する
まず結論 — 同じ600万円でも、払い方で3つの数字が動く
役員報酬の年間の総額を決めたら、次に決めるのは払い方です。毎月均等(A案)と、低めの月給に年1回の賞与を足す形(B案)では、社会保険料の計算の物差しが違うので、本人の手取りと会社の負担が変わります。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 項目 | A案 毎月50万円(年額) | B案 月30万円+賞与240万円(年額) | どちらがどれだけ軽いか(年額) |
|---|---|---|---|
| 本人負担の社会保険料 | 約85.1万円 | 約76.9万円 | B案が約8.2万円軽い |
| 所得税・住民税 | 約46.3万円 | 約47.9万円 | A案が約1.7万円軽い |
| 手取り | 約468.6万円 | 約475.2万円 | B案が約6.6万円多い |
| 会社負担の社会保険料 | 約87.3万円 | 約78.7万円 | B案が約8.6万円軽い |
項目本人負担の社会保険料
B案が約8.2万円軽い
項目所得税・住民税
A案が約1.7万円軽い
項目手取り
B案が約6.6万円多い
項目会社負担の社会保険料
B案が約8.6万円軽い
※この比較に入れた負担は、本人負担と会社負担の社会保険料、社長個人の所得税・住民税です。社会保険料が減る分だけ会社の利益が増えて法人税等が約2.0万円増えるので、会社側の実質の差は会社負担の差より小さくなります
B案で社会保険料が軽くなるのは、賞与の社会保険料に上限(厚生年金は1か月150万円・健康保険は年度573万円)があるためです。ただし、標準報酬月額は月給を変えた月から3か月の平均で2等級以上の差が出たときに随時改定で変わるので、下げた月からすぐに保険料が下がるわけではありません。ご自身なら、この差をどう受け止めるでしょうか。
12か月の支払い予定表 — 賞与の月に何が起きるか
年間計画は、12か月の表に、毎月の役員報酬・賞与・源泉所得税・社会保険料・住民税を並べたものです。賞与の月だけ、次の3つが普段の月と違います。
| 項目 | 普段の月 | 賞与の月 |
|---|---|---|
| 源泉所得税 | 月額表で計算 | 賞与は前月の給与をもとにした算出率の表で計算。前月の給与の10倍を超える賞与は別の計算になる(所得税法186条) |
| 社会保険料 | 標準報酬月額に料率 | 賞与分は標準賞与額(1,000円未満切捨て)に料率。翌月末に月給分と合わせて引き落とし |
| 住民税 | 年税額の12分の1 | 変わらない。賞与から住民税は引かない(地方税法321条の5) |
原則
賞与の社会保険料は、標準賞与額に料率を掛けて計算し、厚生年金は1か月あたり150万円が標準賞与額の上限です。
厚生年金保険法24条の4第1項
ただし
健康保険の標準賞与額には年度(4月1日から翌年3月31日)の累計で573万円の上限があり、超える月の標準賞与額は573万円になるように決め、その年度の以後の賞与は0円になります。
健康保険法45条1項
原則
住民税の特別徴収は、市区町村が決めた年税額の12分の1を6月から翌年5月まで毎月の給与から引き、翌月10日までに納めます。
地方税法321条の5第1項
ただし
役員が退職などで給与を受けなくなったときは、翌月以降の月割額は原則として特別徴収しません。1月1日から4月30日までに受けなくなったときは、5月31日までに払う給与や退職金が残りの月割額を超える場合に限り、その全額を一括して引きます。
地方税法321条の5第2項
年間計画の作り方
年間の総額を決める
会社の利益の見込みと生活費から、役員報酬の年間の総額を置く
月給と賞与に分ける
月給は生活費と社会保険料の等級を見て決め、残りを賞与にする。月給(定期同額給与)の改定は会計期間の開始から3か月を経過する日までに済ませる
賞与の月を決める
決算月・納税の月・社会保険料の引き落としの月を暦に書き、資金の谷に重ならない月を選ぶ
届け出る
賞与を事前確定届出給与にするなら、決議から1か月以内かつ期首から4か月以内に届出書を出す
事前確定届出給与にする条件 — 届出どおりの日と額
賞与を損金にするには、支給の日と額をあらかじめ税務署に届け出て、そのとおりに払う必要があります(法人税法34条1項2号)。事前確定届出給与は、役員報酬が利益の操作に使われないよう、先に日付と金額を確定させたうえで、そのとおりの支給に限って損金算入を認める制度です。
原則
届出書は、株主総会などの決議の日(その日が職務の執行を始める日より後なら、始める日)から1か月を経過する日と、会計期間の開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日までに出します。
法人税法施行令69条4項1号
ただし
新しく設立した法人は、設立の日以後2か月を経過する日が期限です。
法人税法施行令69条4項1号
臨時改定事由が生じたときにした定めの届出は、その直前の職務についてすでに定めがあった役員の分を除き、上の日と、臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日のいずれか遅い日が期限です。
法人税法施行令69条4項2号
届け出た額を変えられるのは、臨時改定事由か業績悪化改定事由があるときに限られ、そのときは変更の届出書を出します。
法人税法施行令69条5項
生活費と会社に残る利益 — 年間計画の道具で並べる
払い方を決めるときに見落としがちなのは、手取りで生活費がまかなえるかと、報酬と会社負担の社会保険料を引いたあとに会社に利益が残るかの2つです。A案とB案の手取りの差は年約6.6万円ですが、月給を下げると毎月の手取りは減り、賞与の月まで生活費が足りなくなる形もあります。
このサイトの年間計画の道具では、年間の総額・案Bの月給・年齢・会社の利益・生活費と期首の月を入れると、案Aと案Bの年間の手取りと生活費の差、会社に残る税引後の利益を並べて出せます。このサイトの道具は無料・登録不要で、入力した金額は送信しません。ご自身の数字で、賞与の月の手取りが生活費を下回らないか確かめてみてください。
まとめ — 金額より先に、暦を決める
役員報酬の年間計画は、総額・月給と賞与の配分・賞与の月・届出の4段階です。社会保険料は賞与の上限の分だけB案が軽くなり、その分だけ将来の年金と保障は低くなります。事前確定届出給与にするなら、届出どおりに払う資金を賞与の月に確保しておくことが条件です。
実行の際は、届出の期限と資金の暦を事前にご相談ください。弊所では、年間計画の表を一緒に作り、届出書と議事録の作成までお手伝いしています。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 タックスアンサー No.2523 賞与に対する源泉徴収
- 国税庁 質疑応答事例 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)
- 国税庁 質疑応答事例 「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い
- 国税庁 質疑応答事例 職務執行期間の中途で支給した事前確定届出給与
- 国税庁 質疑応答事例 定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)
- 国税庁 法人税基本通達 9-2-14(事前確定届出給与の意義)
- 日本年金機構 従業員に賞与を支給したときの手続き(標準賞与額の上限)
- 日本年金機構 厚生年金保険の保険料
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条(定期同額給与の範囲等)
- 国税庁 質疑応答事例 定めどおりに支給されたかどうかの判定
- e-Gov法令検索 所得税法186条(賞与に係る徴収税額)
- e-Gov法令検索 健康保険法45条(標準賞与額の決定)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法24条の4(標準賞与額の決定)
- e-Gov法令検索 地方税法321条の5(給与所得に係る特別徴収税額の納入の義務等)
※本記事の金額は、40歳未満・協会けんぽ東京・扶養なし・給与以外の所得なし・法人の所得500万円の前提で、令和8年度の料率と令和8年分の税制を固定した弊所の概算です。
※合同会社の場合: 本文の「株主総会の決議」は株式会社の場合の手続きです。合同会社には株主総会がなく、業務に関する事項は社員(出資者)の決定で決めます(社員が2人以上なら原則その過半数・一人会社なら本人の決定 — 会社法590条)。役員報酬のような重要事項は定款の定めか総社員の同意で決め、定款の変更には原則として総社員の同意が必要です(同637条)。いずれの場合も、同意書・決定書の形で日付と内容を書面に残します。税務の届出などで「株主総会等の決議」が求められる場面では、合同会社ではこの決定・同意がこれに当たります(法人税法施行令69条3項)。
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