家賃収入を家族に分けて税金を減らせるか — 個人のままの専従者給与は5棟10室から、法人で家族を役員にする形、贈与で持分を移す形の税金
「家賃収入を妻や子どもに分ければ、税率が下がって得だと聞いた」— そんな話を、物件を増やしてきた大家の方から聞くことがあります。所得税は所得が多い人ほど高い税率がかかる仕組みなので(所得税法89条1項)、所得を分けること自体には意味があります。ただし、家賃は物件の持ち主の所得なので、分けるには「仕事の対価として払う」か「物件そのものを分ける」かの形が要ります。
この記事の要点
- 個人のまま家族に給与を払って必要経費にするには、不動産の貸付けが事業的規模(おおむね5棟10室)で、青色申告なら期限までの届出と「専ら従事」が要る(所得税法57条1項・2項・所得税基本通達26-9)。白色申告の専従者控除は配偶者86万円・ほかの家族50万円が上限(所得税法57条3項)
- 法人を作って家族を役員にすれば、職務に見合う役員報酬を払える。毎月同額などの決まりに当てはまる分が法人の損金になる(法人税法34条1項)
- 家賃をその人の所得にするには物件の持分を本当に移す必要があり、名義や口座を変えるだけでは分けられない(所得税法12条)。贈与で移すと贈与税のほか登録免許税・不動産取得税がかかる
まず結論 — 分け方は3つ。どれも「形だけ」では通らない
家賃収入を家族に分ける形は、大きく3つです。1つ目は、個人のまま家族に給与を払う形(青色事業専従者給与・白色申告の事業専従者控除)です。2つ目は、法人を作って家族を役員にし、役員報酬を払う形です。3つ目は、物件の持分を贈与などで移し、家賃そのものをその人の所得にする形です。
| 形 | 前提 | 家族に移る所得 | 主な税金・手続き |
|---|---|---|---|
| 個人のまま給与を払う | 不動産の貸付けが事業的規模(所得税基本通達26-9)。青色申告は届出(所得税法57条2項) | 労務の対価として相当な給与(所得税法57条1項)。白色申告は配偶者86万円・ほかの家族50万円まで(所得税法57条3項) | 給与の源泉徴収。給与を受けた家族は同一生計配偶者・扶養親族から外れる(所得税法2条1項33号・34号) |
| 法人で家族を役員にする | 法人の設立と、家族が実際に行う職務 | 職務に見合う役員報酬(法人税法34条1項) | 毎月同額などの決まり(法人税法34条1項)。健康保険・厚生年金に入るかの判断 |
| 贈与で持分を移す | 持分の贈与と登記 | 移した持分に応じた家賃(所得税法12条) | 贈与税(相続税法21条の5・租税特別措置法70条の2の4第1項)。登録免許税・不動産取得税(登録免許税法3条・地方税法73条の2第1項) |
どの形でも、家族に移す所得は、その家族が負っている仕事やリスク、持ち物に対応していることが前提です。法人にした場合の年間の負担は、このサイトの家賃収入の法人化シミュレーターで確かめてみてください。家族に出す役員報酬や専従者給与まで入れた比較は、弊所の相談用の試算シートで行っています。
個人のまま給与を払う形 — 事業的規模が入口、届出と「専ら従事」が条件
では、個人のまま家族に給与を払うには何が要るのでしょうか。生計を一にする家族に払う給与は、原則として必要経費になりません(所得税法56条)。例外が青色事業専従者給与と白色申告の事業専従者控除で、どちらも「不動産所得を生ずべき事業」を営む人が、その事業に従事する家族に払うものに限られます(所得税法56条・57条1項・3項)。貸付けが事業として行われているかは社会通念で判断しますが、貸間・アパートならおおむね10室以上、独立家屋ならおおむね5棟以上なら原則として事業として扱われます(所得税基本通達26-9)。
原則
青色申告なら、生計を一にする15歳以上の家族で専ら事業に従事する人に、届出の範囲内で払った給与のうち労務の対価として相当な額が必要経費になります。
所得税法57条1項
ただし
届出書は、必要経費にしたい年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新しく事業を始めたときは、始めた日から2か月以内)に出す必要があります。
所得税法57条2項
専ら従事したかは、その年を通じて6か月を超えて従事したかで判定し、年の途中で退職して従事を始めたなど相当の理由があるときは、従事できる期間の2分の1を超えていれば足ります。
所得税法施行令165条1項
白色申告では、配偶者なら86万円、ほかの家族なら1人50万円と、専従者控除前の不動産所得を専従者の数に1を足した数で割った額のどちらか低い方が必要経費とみなされます(所得税法57条3項)。この控除を受けた配偶者や家族は、控除の額がその人の給与の収入とみなされ(所得税法57条4項)、同一生計配偶者や扶養親族からは外れます(所得税法2条1項33号・34号)。
法人で家族を役員にする形 — 職務の実態と「毎月同額」
法人を作って物件を法人に移す、または管理の仕事を法人に置くと、家族を役員にして役員報酬を払えます。役員報酬が法人の損金になるのは、毎月同額で払う定期同額給与、事前に届け出た事前確定届出給与などの決まりに当てはまる分で(法人税法34条1項)、不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項)。受け取る家族の側では給与所得になり、収入が少なくても69万円の給与所得控除が令和8年分から付きます(所得税法28条3項1号)。家族それぞれに給与所得控除が付くことが、所得を分ける効き目の中身です。
法人にするかどうか自体の損得(税率の差・均等割・一度きりの費用)は、このサイトの家賃収入の法人化の専門ページで整理しています。法人化をしないほうがいい大家の条件は、このサイトの家賃収入の法人化をしないほうがいい大家の記事にまとめています。配偶者を役員にする損得の一般論は、このサイトの配偶者を役員にする損得の記事に書きました。
贈与で持分を移す形 — 家賃を分けるには、物件を分ける
家賃は資産から生まれる収益なので、だれの所得になるかは資産の真実の権利者がだれかで決まります(所得税法12条・所得税基本通達12-1)。家族の名義の口座に家賃を振り込んでも、家族を契約書の名義人に加えても、物件の持ち主が変わらなければ家賃は持ち主の所得のままです(所得税法12条)。共有名義の物件の家賃と経費の分け方は、このサイトの共有名義の賃貸物件の確定申告の記事に書きました。
持分を本当に移す方法の1つが贈与です。贈与で受け取った持分の価額から基礎控除110万円を引いた額に贈与税がかかります(租税特別措置法70条の2の4第1項)。名義を移す登記には登録免許税が、取得には不動産取得税がかかります(登録免許税法3条・地方税法73条の2第1項)。移したあとは、その持分に応じた家賃が受け取った家族の不動産所得になり、固定資産税や減価償却費などの経費もその人のものになります(所得税法12条・26条1項)。
借入金が残っている物件は、借入金ごと移す負担付贈与の論点があるので、移す前に税理士に確かめてみてください。贈与で移した持分は戻せないので、贈与税だけでなく、将来の相続まで含めて考えてみてください。
3つの形は、分ける所得の大きさも、手間も、戻せるかどうかも違います。給与は毎年の金額で調整でき、法人は仕組みごと作る必要があり、贈与は一度移すと戻せません。家賃収入の確定申告そのものの流れは、このサイトの家賃収入の確定申告のやり方の記事にまとめています。
※金額は令和8年分の所得税の定めによるもので、住民税の控除額は別に定められています。贈与税の税率と計算は出典に挙げた国税庁のページの速算表をご覧ください。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法2条(定義)・12条(実質所得者課税の原則)・26条(不動産所得)・28条(給与所得)・56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)・57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)・83条(配偶者控除)・89条(税率)・121条(確定所得申告を要しない場合)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令165条(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 相続税法21条の5(贈与税の基礎控除)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法70条の2の4(贈与税の基礎控除の特例)
- e-Gov法令検索 登録免許税法3条(納税義務者)
- e-Gov法令検索 地方税法73条の2(不動産取得税の納税義務者等)
- 国税庁 所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
- 国税庁 所得税基本通達12-1(資産から生ずる収益を享受する者の判定)
- 国税庁タックスアンサー No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
- 国税庁タックスアンサー No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 国税庁タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
- 国税庁タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表
- 国税庁 質疑応答事例 年の中途で事業に従事した親族に係る青色事業専従者給与
- 国税庁 質疑応答事例 白色事業専従者が他に給与所得を有する場合
- 国税不服審判所 公表裁決 平成23年6月7日裁決 契約の名義を変えても建物の持ち主に家賃が帰属するとされた事例
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