医療費控除の確定申告 — 10万円以下でも受けられる人、セルフメディケーション税制との選び方、明細書の作り方
「医療費が10万円を超えなかったから、医療費控除はあきらめた」— そう決める前に、一度だけ確かめてほしいことがあります。控除の計算のしくみ、対象になる費用、セルフメディケーション税制との選び方、明細書の作り方を、令和8年分(2027年2月16日〜3月15日に申告)の決まりで整理します。
この記事の要点
- 控除額は、支払った医療費から保険金などで補てんされる額を引き、さらに10万円を引いた残り。総所得金額等が200万円未満の方は10万円でなく総所得金額等の5%を引くので、医療費が10万円以下でも控除になることがある(所得税法73条1項)
- 保険金や高額療養費は、その給付の目的になった医療費からだけ引く。生計を一にする家族の分は、支払った人がまとめて控除する
- セルフメディケーション税制(対象の市販薬の購入費が12,000円超・控除の上限88,000円)とはどちらか一方で、申告したあとに変えられない。領収書は申告書に付けず、明細書を作って領収書は5年保存する
まず結論 — 10万円は「上限」で、所得が低ければもっと手前から使える
医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に自分と生計を一にする家族のために支払った医療費が一定の額を超えたときに、その超えた部分を所得から差し引く所得控除です(所得税法73条1項)。差し引く「一定の額」は、10万円と総所得金額等の5%のどちらか少ない方で、控除できる額の上限は200万円です(所得税法73条1項)。
総所得金額等が200万円未満の方は、線がもっと手前にあります。総所得金額等は収入そのものではなく、給与なら給与所得控除を引いた後の所得の合計です(所得税法22条2項・28条2項)。線の基になる額には、総所得金額のほか退職所得金額と山林所得金額も入ります(所得税法73条1項)。土地や株式を売った年の譲渡所得など申告分離課税の所得も加えるので、退職金を受けた年や不動産を売った年は線が上がることがあります。
たとえば総所得金額等が150万円の方なら、線はその5%の7万5,000円です。
医療費が9万円でも、線を超えた1万5,000円が控除になります。パートや年金の収入が中心の方、年の途中で退職した方は、10万円という数字だけで決めずに、ご自分の線を一度計算してみましょう。
医療費控除は、年末調整で受けられる控除の中に入っていません(所得税法190条)。会社員の方も、確定申告書に明細書を付けて自分で申告します(所得税法120条4項)。
対象になる医療費・ならない医療費 — 分かれ目は「治療のため」かどうか
対象になるのは、医師・歯科医師の診療や治療、治療や療養に必要な医薬品の購入、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術、看護師などによる療養上の世話、助産師の分べんの介助などの対価です。いずれも、病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分に限られます(所得税法施行令207条)。診療を受けるために直接必要な通院費、入院の部屋代・食事代、医療用器具の購入費も医療費に含まれます(所得税基本通達73-3)。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 対象になる | 診療・治療費、処方薬と治療のための市販薬(風邪薬など)、電車やバスでの通院費、入院中の部屋代と病院の食事代、子どもの発育のために行う不正咬合の歯列矯正 |
| 対象にならない | 人間ドック・健康診断の費用(重大な疾病が見つかって治療した場合を除く)、美容目的の整形や歯列矯正、予防や健康増進のためのビタミン剤など、自家用車で通院したときのガソリン代・駐車場代、タクシー代(電車やバスが使えないときを除く)、本人の都合で選んだ差額ベッド代、医師への謝礼 |
原則
人間ドックなどの健康診断の費用と、容姿を美化したり容ぼうを変えたりするための費用は、医療費に当たりません。
所得税基本通達73-4
ただし
健康診断で重大な疾病が見つかり、引き続きその治療をしたときは、その健康診断の費用も医療費に含まれます。
所得税基本通達73-4
医薬品は、治療や療養に必要なものが対象で、疾病の予防や健康増進のために使うものの購入代は医療費に当たりません(所得税基本通達73-5)。市販薬を買ったときは、何の症状のために買ったかをレシートにメモしておくと、あとで分けやすくなります。
対象になるのは、その年に現実に支払った医療費で、未払いの分は支払った年の控除になります(所得税基本通達73-2)。生計を一にする配偶者や親族の医療費は、医療費を支払った人の控除になります(所得税基本通達73-1)。共働きの妻の医療費を夫が払ったときも、生計を一にしていれば、妻に所得があっても夫の控除です。
保険金や高額療養費の差し引き — 引くのは「その給付の目的になった医療費」から
差し引くのは、健康保険の高額療養費・出産育児一時金・家族療養費、生命保険や損害保険の入院給付金・医療保険金、医療費の補てんを目的とする損害賠償金などです(所得税基本通達73-8)。
原則
支払った医療費からは、保険金や損害賠償金などで補てんされる部分を除いて控除額を計算します。
所得税法73条1項
ただし
傷病手当金や出産手当金のように働けなかったことに対して受け取る給付、死亡や重度障害を原因に受け取る保険金、勤め先からの見舞金は、医療費を補てんするものに当たらないので差し引きません。
所得税基本通達73-9
差し引くときは、その保険金の給付の目的になった医療費からだけ引きます。入院費10万円に対して入院給付金15万円を受け取ったなら、差し引くのは入院費の額までです。残りの5万円を、歯の治療費など別の医療費から引く必要はありません。
申告書を出す時点で保険金の額が確定していなければ、見込みの額で計算して申告し、あとで確定した額が違ったときはさかのぼって控除額を直します(所得税基本通達73-10)。年をまたいで支払った入院費に対して保険金をまとめて受け取ったときは、原則として各年の入院費の額に応じて按分します。
セルフメディケーション税制との選び方 — 併用できず、あとから変えられない
セルフメディケーション税制は医療費控除の特例で、その年中に健康診断や予防接種などの「一定の取組」を行っている方が、対象の市販薬(スイッチOTC医薬品など)を買ったときに使えます。その年の対象医薬品の購入費のうち12,000円を超える部分が控除になり、上限は88,000円です(租税特別措置法41条の17第1項)。
期限付きの制度でしたが、令和8年度の税制改正で、スイッチOTC医薬品の部分は期限が無くなり、それ以外の対象医薬品の部分は令和13年分まで延長されました(租税特別措置法41条の17第1項。令和9年1月1日施行の改正後)。改正後の規定は令和9年分以後に適用され、令和8年分までは従前の規定によります(令和8年改正法(租税特別措置法関係)附則46条)。令和9年分からは対象になる医薬品の範囲も一部見直されるので、対象かどうかは領収書の対象商品の表示と厚生労働省の対象品目一覧で確かめてください。
| 項目 | 医療費控除(年額) | セルフメディケーション税制(年額) |
|---|---|---|
| 対象の支出 | 治療のための医療費全般 | 対象の市販薬の購入費 |
| 差し引く額 | 10万円(総所得金額等200万円未満はその5%) | 12,000円 |
| 控除の上限 | 200万円 | 88,000円 |
| 本人の要件 | なし | その年中に健康診断・予防接種などの取組を行っている |
| 添付する書類 | 医療費控除の明細書 | セルフメディケーション税制の明細書 |
この特例は、通常の医療費控除の差し引く額を12,000円に、上限を88,000円に読み替えて同じ規定を適用するものなので、同じ年に両方は使えません(租税特別措置法41条の17第1項。令和9年1月1日施行の改正後も同じ)。どちらかを選んで申告したあとに、更正の請求や修正申告でもう一方に変えることはできません。申告する前に、両方の控除額を並べて比べてみましょう。
「一定の取組」の中身は、厚生労働大臣が財務大臣と協議して定めます(租税特別措置法施行令26条の27の3第1項)。健康保険などの保険者の健康診査(人間ドックを含む)、勤め先の定期健康診断、インフルエンザなどの予防接種、特定健康診査、市区町村のがん検診などが当たります。
取組は、申告する本人が控除を受ける年分の中に受けている必要があり、前の年に受けた健診だけでは使えません。家族が受けている必要はありません。なお、健康診断や予防接種そのものの費用は、この特例の控除額には入りません。
取組を証明する書類と市販薬の領収書は申告書に付けませんが、税務署から提示や提出を求められることがあるので、手元で保存します(租税特別措置法41条の17第3項。令和9年1月1日施行の改正後の項で、令和8年分までは同条4項)。保存の期間は、通常の医療費控除の領収書と同じ5年です(所得税法120条5項)。
明細書の作り方 — 領収書は出さず、5年保存する
医療費控除を受けるには、医療費の額などを書いた「医療費控除の明細書」を確定申告書に添付します(所得税法120条4項)。明細書に書くのは、医療を受けた人の氏名、病院や薬局などの名称、支払った医療費の額です(所得税法施行規則47条の2第12項)。
領収書は申告書に付けませんが、税務署は確定申告期限の翌日から5年の間、領収書の提示や提出を求めることができるので、手元で保存します(所得税法120条5項)。還付申告(還付請求申告書)の場合は、その申告書の提出があった日を確定申告期限として5年を数えるので、保存の期間は出した日の翌日から5年になり、遅く出すほど後ろにずれます(所得税法122条3項。令和9年1月1日施行の改正後も同じ)。
医療費控除の明細書を作る4段階
医療費のお知らせを用意する
健康保険から届く「医療費のお知らせ」(医療費通知)に、受診した人・年月・医療機関名・支払った額などの記載があれば、その合計を明細書の医療費通知の欄に写す
お知らせに無い分を足す
お知らせの対象期間に入っていない月の分や、市販薬・通院費などお知らせに載らない支払いは、領収書から「医療を受けた人」と「病院等」ごとに1年分をまとめて書く
補てんされる額を書く
高額療養費・出産育児一時金・入院給付金などは、その給付の目的になった医療費の行に、支払った額を限度に書いて差し引く
控除額を計算して申告書へ写す
合計から補てん額と10万円(または総所得金額等の5%)を引いた額を、申告書の医療費控除の欄に書く。確定申告書等作成コーナーなら自動で計算される
まとめ — 「10万円以下だから」であきらめる前に
医療費控除の線は、10万円か総所得金額等の5%の少ない方です。家族の分を合わせ、通院費や市販薬まで数えたうえで、セルフメディケーション税制と並べて有利な方を選びます。領収書は出さずに明細書を作り、領収書は5年保存します。
年末調整を受けた会社員の方が医療費控除だけで還付を受ける申告は、翌年1月1日から5年間出せます(所得税法122条・国税通則法74条)。申告の期間(2月16日〜3月15日)を待たずに出せるので、資料がそろったら早めに済ませましょう。医療費控除を含めた確定申告を任せたい方は、弊所の個人の確定申告の専門ページをご覧ください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
- 国税庁 タックスアンサー No.1119 医療費控除に関する手続について
- 国税庁 タックスアンサー No.1122 医療費控除の対象となる医療費
- 国税庁 タックスアンサー No.1126 医療費控除の対象となる入院費用の具体例
- 国税庁 タックスアンサー No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例
- 国税庁 タックスアンサー No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】
- 国税庁 タックスアンサー No.1131 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用
- 国税庁 タックスアンサー No.1133 健康の保持増進及び疾病の予防への取組を行っている場合
- 国税庁 質疑応答事例 支払った医療費を超える補填金
- 国税庁 質疑応答事例 医療費を補填する保険金等の金額のあん分計算
- 国税庁 質疑応答事例 共働き夫婦の夫が妻の医療費を負担した場合
- 国税庁 質疑応答事例 還付請求の消滅時効の起算日
- 国税庁 医療費控除の明細書の記載例(医療費通知を添付する場合・補てん金の按分)
- 厚生労働省 セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について(対象品目一覧・一定の取組)
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱 個人所得課税(セルフメディケーション税制の適用期限と対象医薬品の見直し)
- e-Gov法令検索 所得税法22条(課税標準)・28条(給与所得)・73条(医療費控除)・89条(税率)・120条(確定所得申告)・122条(還付等を受けるための申告)・190条(年末調整)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令207条(医療費の範囲)
- e-Gov法令検索 所得税法施行規則47条の2(確定所得申告書に添付すべき書類等)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法41条の17(特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法41条の17(令和9年1月1日施行・令和8年法律第12号による改正後)・令和8年改正法(租税特別措置法関係)附則46条(令和9年分以後の適用)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令26条の27の3(一定の取組)
- e-Gov法令検索 国税通則法74条(還付金等の消滅時効)
- e-Gov法令検索 地方税法35条(所得割の税率)・314条の2(所得控除)・314条の3(所得割の税率)
- 国税庁 所得税基本通達73-1〜73-10(医療費控除関係)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。令和9年分以後のセルフメディケーション税制の記述は、令和8年法律第12号による改正後の条文と令和8年度税制改正の大綱に基づきます。
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