自宅の一部を会社に貸して家賃を受け取る — 法人の経費と社長の不動産所得、住宅借入金等特別控除・固定資産税への影響
自宅の一室を会社の事務所にしている一人社長が、会社から家賃を受け取る形にすると何が起きるか。会社では経費になりますが、社長には不動産所得の申告が生じ、貸す割合によっては住宅ローン控除と固定資産税にも影響します。家賃の決め方、社長側の申告、2つの制度への影響、消費税の扱いを整理します。
この記事の要点
- 会社が払う家賃は損金になり(法人税法22条3項)、社長は不動産所得として確定申告する(所得税法26条)。自分の会社に貸した対価なので、年20万円以下でも申告が要る(所得税法121条1項)
- 住宅ローン控除は、貸す部分を除いた居住用の割合だけが対象。貸す部分が床面積の2分の1を超えると全部が対象外になる(租税特別措置法施行令26条1項・7項)
- 固定資産税の住宅用地の特例は、居住部分が床面積の4分の1以上なら残り、2分の1以上なら敷地の全部が住宅用地のまま(地方税法施行令52条の11)
仕組み — 会社の経費と社長の不動産所得は、同じ家賃の裏表
会社と社長は別の人格なので、社長の自宅を会社が使う対価として家賃を払えば、会社の損金になります(法人税法22条3項)。同じ額が社長の不動産所得の収入になり、固定資産税・火災保険料・減価償却費・住宅ローンの利息のうち貸した部分に対応する額を経費にして、残りを申告します(所得税法26条2項)。
給与以外の所得が20万円以下なら確定申告をしなくてよい決まりがありますが、自分の勤める会社に資産を貸して対価を受ける場合は対象外です。家賃が年20万円以下でも、社長は確定申告をします(所得税法121条1項)。
| 会社に貸す部分の割合(床面積) | 住宅ローン控除 | 固定資産税の住宅用地の特例 |
|---|---|---|
| 50%以下 | 原則として居住用の床面積の割合の分だけ控除 | 敷地の全部が住宅用地のまま(居住部分が2分の1以上) |
| 50%超〜75%以下 | 対象外(床面積の2分の1以上が居住用でない) | 敷地の半分が住宅用地(居住部分が4分の1以上2分の1未満) |
| 75%超 | 対象外 | 住宅用地の特例なし(居住部分が4分の1未満) |
居住用以外の部分があれば借入金は居住用の床面積の割合で按分するのが原則ですが(租税特別措置法施行令26条7項)、居住用がおおむね90%以上なら全部を居住用として控除できます(措置法通達(申告所得税関係)41-29)。割合は床面積で測り、共用の廊下や水回りは入れないのが自然だと考えています。
また、住宅ローン控除は合計所得金額が2,000万円以下の年に限られるので、家賃の不動産所得を加えて2,000万円を超える年は控除を受けられません(租税特別措置法41条1項)。ただし、床面積の小さい住宅(小規模居住用家屋)の特例で控除を受けている場合は、合計所得金額が1,000万円を超える年は控除を受けられません(租税特別措置法41条16項)。
家賃の決め方 — 相場と面積の割合、高すぎれば給与
家賃は、近隣の事務所や住宅の賃料の相場に、会社が使う床面積の割合を掛けた額を目安にするようお勧めしています。契約書を作り、毎月同じ日に会社の口座から社長の口座へ振り込みます。相場より明らかに高い家賃は、差額が社長への経済的な利益として役員給与とみなされ、定期同額給与に当たらない部分は損金になりません(法人税法34条1項・4項)。
社長側の申告 — 不動産所得の計算と青色申告
不動産所得は、家賃の収入から貸した部分に対応する経費を引いて計算します(所得税法26条2項)。経費にできるのは、固定資産税・火災保険料・建物の減価償却費・住宅ローンの利息・修繕費のうち、貸している床面積の割合分です。マンションの管理費も、同じ割合で入れるのが自然だと考えています。
原則
事業として行う規模に当たらない貸付だけなら、青色申告をしても青色申告特別控除は最高10万円で、令和9年1月1日施行の改正後も変わりません。
租税特別措置法25条の2第1項
ただし
社長が個人で事業所得を生ずべき事業も営み、取引を詳しく記録した帳簿を備えて期限までにe-Taxで申告すれば、改正後は不動産所得と事業所得の合計額を限度に65万円を控除できます。
租税特別措置法25条の2第4項・7項
改正後は、同じ帳簿でも紙で申告すると最高10万円で、帳簿を所定の要件を満たす形で電子保存してe-Taxで申告すれば75万円です。
租税特別措置法25条の2第1項・5項・7項
青色申告者のうち小規模事業者として政令で定める要件に当てはまる人は、不動産所得や事業所得の収入と経費を、その年に収入した金額と支出した費用の額で計算できます(所得税法67条1項)。改正後は、この特例を受けている人は65万円・75万円の控除の対象から除かれます。
租税特別措置法25条の2第4項・5項
消費税 — 事務所の家賃は課税、ただし社長は免税のことが多い
消費税が非課税になるのは住宅として貸し付けた部分だけで、事務所として貸す家賃は課税の対象です(消費税法基本通達6-13-5)。社長個人が会社に継続して貸せば、「事業として」の貸付に当たります(消費税法基本通達5-1-1)。
原則
社長個人の課税売上高(家賃など)が基準期間(前々年)で1,000万円以下なら、その年の納税義務は免除されます。超えた年の翌々年から課税事業者になります。
消費税法基本通達1-4-1
ただし
社長個人がインボイス(適格請求書発行事業者)の登録を受けていると、基準期間の判定のような時間差はなく、登録日から課税事業者として納税します。
消費税法基本通達1-4-1の2
個人事業者のときに課税事業者選択届出書を出していると、選択不適用届出書を出さない限り効力は続き、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者のままです(消費税法基本通達1-4-11)。法人成りで個人事業を廃止した旨の届出書を出していれば、選択不適用届出書を出したものとして扱われます。
消費税法基本通達1-4-15
個人事業主から法人化した社長で、個人のインボイス登録を取り消していない方は、会社から受け取る家賃にも消費税の申告が必要です。会社側は、社長が登録事業者でなければ適格請求書を受け取れないため、原則として家賃の消費税の仕入税額控除を受けられません(消費税法30条7項・9項)。ただし、経過措置により、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは仕入税額相当額の50%を控除できます。
始めるときの手順 — 面積・相場・契約書・按分の元
1. 会社が使う部屋の床面積を測り、全体に対する割合を出す(10%以内か、2分の1を超えないかを先に確かめる)
2. 近隣の賃料の相場を調べ、割合を掛けて家賃を決める
3. 社長と会社の間で賃貸借契約書を作り、毎月同じ日に振り込む
4. 固定資産税の通知・火災保険の証券・ローンの返済予定表・購入時の契約書を集め、按分の元になる数字をそろえる
5. 翌年の確定申告で不動産所得を申告する(家賃が年20万円以下でも)
ご自宅の間取り図で、会社が使う部分は全体の何%になるでしょうか。先に割合を測ってから、家賃の額を決めてみてください。
まとめ — 10%以内なら影響は小さく、2分の1を超えると制度が外れる
会社に貸す家賃は会社の損金・社長の不動産所得で(法人税法22条3項・所得税法26条)、割合が小さいうちは住宅ローン控除も固定資産税も動きません(措置法通達(申告所得税関係)41-29・地方税法施行令52条の11)。家賃の額は相場と面積の割合、申告は年20万円以下でも必要(所得税法121条1項)、消費税は事務所の貸付として課税の対象(消費税法基本通達6-13-5)。この3点を押さえてから契約書を作ることをお勧めします。
※固定資産税の住宅用地の割合は、地上5階以上の耐火建築物を除く一般の併用住宅の区分です。消費税の扱いは、社長個人が消費税の課税事業者かどうかで変わります。
出典
- 国税庁 店舗併用住宅を新築した場合(住宅借入金等特別控除の対象となる借入金の計算)
- 国税庁 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
- 国税庁 住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等
- 国税庁 措置法通達(申告所得税関係)41-29(自己の居住の用に供される部分の床面積)
- 国税庁 消費税法基本通達1-4-1(納税義務が免除される課税期間)・1-4-1の2(適格請求書発行事業者の適用関係)・1-4-11(課税事業者選択届出書の効力)
- 国税庁 消費税法基本通達5-1-1(事業としての意義)
- 国税庁 消費税法基本通達6-13-5(店舗等併設住宅の取扱い)
- e-Gov法令検索 所得税法26条(不動産所得)・121条(確定所得申告を要しない場合)
- e-Gov法令検索 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)・34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)・41条(住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令26条(住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除)
- e-Gov法令検索 地方税法349条の3の2(住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例)
- e-Gov法令検索 地方税法施行令52条の11(住宅用地の特例の対象になる家屋と土地)
- e-Gov法令検索 消費税法4条(課税の対象)・6条(非課税)・30条(仕入れに係る消費税額の控除)
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