会社にするつもりがない人にも、フリーランスの税理士は要るか — 個人のまま続ける1年に起きる税の判断と、頼むときの分担
「税理士は会社のためのもので、個人のままなら要らないのでは」— 会社にする予定がなく、一人で仕事を続ける個人事業主・フリーランスの方に向けて、個人のままの1年に起きる税の判断と、税理士に頼むと何が移って何が残るかを整理します。頼むと法人化を勧められそう、という不安にも先に答えておきます。
この記事の要点
- 税理士の仕事(税務代理・税務書類の作成・税務相談)は租税に関する事務で、個人事業主の所得税・消費税も対象になる。会社のためだけの資格ではない(税理士法2条1項)
- 個人のまま続ける1年にも、経費の線引き・報酬の源泉徴収の精算・消費税・予定納税・帳簿の保存と、判断と期限が続く。判断の数は売上の大きさより取引の形で決まると見ています
- 頼んでも、領収書の撮影や明細の用意、質問、納税の手続きは本人に残る。会社にする予定が無いことは、頼まない理由にも頼めない理由にもならないと考えています
まず結論 — 税理士は会社のためだけのものではない
税理士の仕事は、税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つで、対象は租税に関する事務です(税理士法2条1項)。個人事業主の所得税の確定申告書を本人に代わって作って出すこと、税務署の調査への対応、税額の計算に関する相談も、この3つに入ります(税理士法2条1項)。会社にするかどうかは、税理士に頼めるかどうかとは別の話だと考えています。
「頼むと法人化を勧められるのでは」という不安は、頼むかどうかとは分けて考えてよいと見ています。弊所では、個人のまま続けた場合と法人化した場合の税金・社会保険料の総負担をあなたの数字で比べ、有利なときだけ法人化をご提案し、有利でなければ個人のまま続ける前提でお手伝いしています。会社にする予定が無い方の記帳・確定申告・ふだんのご相談を、弊所は続けてお受けしています。
個人のまま続ける1年に起きる税の判断 — 数は、売上より取引の形で決まる
会社にしなくても、1年の中で判断と期限は続きます。どれも税理士に頼まないと決められないものではありませんが、期限を過ぎてからでは選び直せないものが混ざっています。時期の順に並べました。
| 時期 | 判断 | 根拠 |
|---|---|---|
| 日々の支出のたび | 生活にも使う支出(自宅の家賃・通信費・服など)は、業務に必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけが必要経費になる | 所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条1号 |
| 機材を買ったとき | 取得価額10万円未満の機材・備品は、使い始めた年の必要経費。10万円以上は減価償却の対象 | 所得税法施行令138条 |
| 報酬を受け取るたび | 原稿・デザインの報酬や講演料は、原則として支払う側が所得税を差し引いて翌月10日までに国に納める。ただし、支払う側が給与の源泉徴収義務の無い個人なら差し引かれない。差し引かれた税は確定申告で1年分の所得税から控除し、控除しきれない分は還付を受ける | 所得税法204条1項1号・2項2号・120条1項4号・122条1項2号・138条1項 |
| 売上が1,000万円を超えた年の翌々年から(前年上半期の判定もある)・インボイスに登録した日から | 消費税の納税義務は、基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円以下なら免除され、超えると「見る期間」の翌々年から課税事業者になる。免税だった年の売上は税込の全額で見る。前年1月〜6月(特定期間)の課税売上高と給与等の支払額がともに1,000万円を超えた年も課税事業者になる。インボイスの登録にはこの時間差が無く、登録した免税事業者は登録日から課税事業者になり、登録の取消しを届け出ないかぎり免除に戻らない。経過措置で免税事業者のまま登録した場合は、登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まなければ、取り消しても登録日から2年を経過する日の属する課税期間までは免除に戻れない | 消費税法2条1項14号・9条の2・消費税法基本通達1-4-1・1-4-1の2・1-4-5・21-1-1 |
| 課税事業者になる年の前 | 簡易課税を使うなら、基準期間の課税売上高5,000万円以下の課税期間について届出書を出す。届出は、事業を始めた課税期間などを除き、出した日の属する課税期間の翌課税期間から効く | 消費税法37条1項 |
| 7月と11月 | 前年分の所得税の額から源泉徴収された税を引いた予定納税基準額が15万円以上なら、7月と11月にその3分の1ずつを前もって納める | 所得税法104条1項 |
| 1年を通して | 青色申告の承認を受けている人は、帳簿書類を備え付けて取引を記録し、保存する。帳簿と決算に関する書類は7年、取引の書類は7年(現金預金取引等関係書類に当たらないものは5年) | 所得税法148条・所得税法施行規則63条1項 |
| 翌年2月16日〜3月15日 | 所得税の確定申告書を税務署長に提出する | 所得税法120条1項 |
表のどの行も、事業の規模ではなく取引の形で決まります。源泉徴収の行は原稿料や報酬を受け取る方だけに、消費税の行はインボイスに登録した方と売上が伸びた方だけに関係します。ご自身の去年1年の領収書と入金を、この表に当てはめてみてください。
原則
消費税は、前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下なら、その年の納税義務が免除されます。
消費税法基本通達1-4-1
ただし
免税事業者だった年を基準期間として見るときは、受け取った金銭の全額(税込)が課税売上高になり、税抜にして1,000万円以下と判断することはできません。
消費税法基本通達1-4-5
前年1月1日から6月30日まで(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えると、前々年の売上がこの線以下でもその年は免除されません。この判定は同じ6か月に支払った給与等の額で行うことを選べ、給与等が1,000万円以下なら免税のままでいられます。個人事業主で上半期にそれだけの給与を払う方は多くないため、実際には前々年の売上で決まることがほとんどだと見ていますが、売上が急に伸びた年は確かめておきましょう。
消費税法9条の2第1項・3項
課税事業者を選ぶ届出書(課税事業者選択届出書)を出した方は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の年も課税事業者になります。この届出の効力は、やめる届出書(課税事業者選択不適用届出書)を出さないかぎり続きます。
消費税法基本通達1-4-11
インボイスに登録した方は、登録の取消しを届け出ないかぎり免除に戻れません(消費税法基本通達1-4-1の2)。令和5年10月1日から令和11年9月30日までの経過措置で免税事業者のまま登録した方は、登録していなければ免除になる場合でも、取消しで免除に戻れる時期が登録日の属する課税期間で分かれます。その課税期間が令和5年10月1日を含むなら取消しを受けて免除に戻れますが、含まないなら取消しを届け出ても、登録日から2年を経過する日の属する課税期間までは免除に戻れません。
消費税法基本通達21-1-1
一人で続ける仕事の型と、出やすい論点 — 業種名より「お金の入り方」で決まる
職種の名前で論点が決まるわけではありません。同じWeb制作でも、受託で納品するのか、原稿料として受け取るのか、海外の会社から振り込まれるのかで、出てくる判断が変わります。弊所でよくご依頼いただくITエンジニア・Web制作・デザイナー・映像・イラスト・執筆などのクリエイター・コンサルタントの方の仕事も、次の3つの型のどれかに当てはまることが多いと見ています。
受託で制作・開発する型 — 機材と、ソフトの購読
パソコン・カメラなどの機材は、取得価額10万円未満なら使い始めた年の必要経費、10万円以上なら減価償却の対象です(所得税法施行令138条)。仕事と私用の両方で使うパソコンやソフトの購読料は、業務に必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけが必要経費になります(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条1号)。台数・時間・案件のどれで区分するかを決め、その元になる記録を残しておきましょう。
原稿料・デザイン料など、報酬から源泉徴収される型
原稿・さし絵・デザインの報酬や講演料は、原則として支払う側が所得税を差し引いてから振り込みます(所得税法204条1項1号)。ただし、支払う側が給与の源泉徴収義務の無い個人なら、その報酬は源泉徴収の対象になりません(所得税法204条2項2号)。差し引かれた税は前払いで、確定申告で1年分の所得税から控除し、控除しきれない分は申告で還付を受けられます(所得税法120条1項4号・122条1項2号・138条1項)。請求額と入金額の差を、売上の減額ではなく前払いの税として帳簿に残しておくことが、申告の精算の土台になると考えています。
海外のプラットフォーム・取引先から入金がある型
海外から入金がある方は、その入金に消費税がかかるかどうかを、取引ごとに確かめておきましょう。弊所でも、入金の消費税の扱いを取引ごとに確かめています。国内の取引と同じ扱いだと決めてかからないことが、消費税の申告で慌てないコツだと考えています。
「会社にしたほうが得」と言われる不安 — 有利かどうかは数字で確かめましょう
法人化が有利かどうかは、利益の水準だけでなく、役員報酬の決め方・家族構成・売上の波で変わり、個人のままのほうが負担が軽い例も珍しくないと見ています。試算の例は法人化しないほうがいい人の記事にまとめています。会社にする予定が無いことは、税理士に頼まない理由にも、頼めない理由にもならないと考えています。
弊所では、法人化は有利なときだけご提案し、有利でなければ個人のまま続けることをお勧めしています。初回の無料相談(45分・Google Meet)では、記帳の分担と料金の目安に加えて、あなたの場合に法人化が話題になるかどうかもお伝えします。
頼むときの分担 — 本人に残るもの、税理士に移るもの
税理士に頼んでも、すべてが手から離れるわけではありません。弊所の個人事業主の顧問契約で、ご本人に残るものと弊所が担うものを並べます。
| 仕事 | 担当 | 中身 |
|---|---|---|
| 領収書と明細の用意 | ご本人 | 紙の領収書はスマートフォンで撮影し、連携できない口座の明細はCSVかPDFで、弊所がお渡しするGoogle ドライブの共有フォルダへ入れる。紙の原本は送らず、お手元で保存 |
| 請求書の発行と入金の確認 | ご本人 | 取引先への請求書はご本人が発行し、入金の確認もご本人が行う。弊所は請求書の作成を代行しない |
| 口座連携の再認証 | ご本人 | 銀行口座やクレジットカードの自動連携が切れたときの再認証(ログインのし直し)は、ご本人が行う。弊所が代わりにログインすることはない |
| 記帳 | 弊所 | 預金・カードの明細の取り込みと仕訳の登録は弊所が行う。ご自身で入力して弊所が確認する形も選べ、条件を満たせば月額を減額する |
| ふだんの質問 | ご本人が聞き、弊所が答える | LINE・Chatwork・Google Chat・メールのいずれかで、回数の上限なく受け、遅くとも1営業日以内に弊所が返信。お調べが必要な内容は、その旨と回答のめどを先に伝える |
| 納税額の見通し | 弊所 | 年の途中の数字から利益の着地を見込み、決算の前に一度、Google Meetの画面共有でその年の数字と納税額の見込みを一緒に確かめる |
| 届出 | 弊所 | 開業届・青色申告の承認申請・インボイスの登録申請は、作成から提出まで弊所が行う(月額に含む) |
| 確定申告 | 弊所 | 青色申告決算書(または収支内訳書)と所得税の確定申告書を作り、弊所が電子申告で代理提出する |
| 納税 | ご本人 | ダイレクト納付やペイジーなどの電子納税を弊所がご案内し、ご自宅のパソコンから手続きする |
| 帳簿と書類の保存 | ご本人 | 帳簿書類の保存は本人の義務で、原本はお手元で保存する(所得税法148条・所得税法施行規則63条1項) |
表の右の列は弊所の今の進め方で、税理士事務所ごとに違います。ご本人に残るのは、資料を出す・請求して入金を確かめる・口座連携を保つ・質問する・納める・帳簿を保存する、の6つで、計算と書類は弊所に移ります。この分担で続けられそうか、ご自身の1か月の流れに当てはめてみてください。
まだ早い段階と、頼みどき
開業した直後で取引が少なく、売上も経費も単純なうちは、会計ソフトを使ってご自身で申告されている方も多いと見ています。頼みどきの目安は、消費税の申告が始まる・法人化を考え始めた・記帳と申告が本業を圧迫している、の3つのサインだと考えています。3つのサインの中身は、税理士はいつから必要かの記事で確かめてみてください。会社にする予定が無くても、インボイスに登録した年と、源泉徴収される報酬が増えた年は、判断の数が一段増えると見ています。
頼むと決めたら、申告のときだけ見てもらうより、毎月見てもらう形を弊所では基本にしています。消費税の方式の選択も経費の区分も、年の途中で決めておくものが多いと見ています。申告の直前に1年分を振り返るのでは、直せる時期を過ぎてから気づくことになりがちだと考えています。
まとめ — 会社にしなくても、税理士は使える
税理士の仕事は個人の所得税の申告も対象で(税理士法2条1項)、個人のまま続ける1年にも、経費の区分・源泉徴収の精算・消費税・予定納税・帳簿の保存と判断が続きます。弊所に頼むと、計算と書類は弊所に移り、資料を出すこと・質問すること・納めることが本人に残ります。頼むかどうかを決めるのに、会社にするかどうかの答えを先に出しておく必要はないと考えています。
Q. 売上がいくらになったら、税理士に頼むべきですか
「売上いくらから」という一律の線は置いていませんが、消費税の申告が始まる年(売上が1,000万円を超えた年の翌々年)は、多くの方にとって最初の目安になると見ています。消費税の申告が始まる・法人化を考え始めた・記帳が本業を圧迫している、の3つのサインのどれかが当てはまったら、検討を始める合図だと考えています。
Q. 確定申告だけを頼めますか
弊所では、記帳・確定申告・ふだんのご相談を月額で続けてお受けする形が基本です。その年分の確定申告だけのご依頼も、弊所は個人の確定申告のページの受付の条件(受付の年分だけで、過去の年分は受けない)と料金で、1年分ずつお受けします。
弊所では、個人事業主・フリーランスの方の記帳・確定申告・ふだんのご相談を、月額(決算・申告料込み・月2.0万円から・税抜)で続けてお受けしています。法人化は、弊所があなたの数字で試算して有利なときだけご提案し、有利でなければ個人のまま続ける前提でお手伝いします。頼める範囲と年額の例は、個人事業主の税務顧問のページで確かめてみてください。
出典
- e-Gov法令検索 税理士法2条(税理士の業務)
- e-Gov法令検索 所得税法45条(家事関連費等の必要経費不算入等)・104条(予定納税額の納付)・120条(確定所得申告)・122条(還付等を受けるための申告)・138条(源泉徴収税額等の還付)・144条(青色申告の承認の申請)・148条(青色申告者の帳簿書類)・204条(源泉徴収義務)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令96条(家事関連費)・138条(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)
- e-Gov法令検索 所得税法施行規則63条(帳簿書類の整理保存)
- e-Gov法令検索 消費税法2条(定義・基準期間)・9条の2(前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例)・37条(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
- 国税庁 消費税法基本通達1-4-1(納税義務が免除される課税期間)・1-4-1の2(適格請求書発行事業者には納税義務の免除の適用がないこと)・1-4-5(基準期間が免税事業者であった場合の課税売上高)・1-4-11(課税事業者選択届出書の効力)
- 国税庁 消費税法基本通達21-1-1(免税事業者に係る適格請求書発行事業者の登録申請に関する経過措置)
- 国税庁 タックスアンサー No.2070 青色申告制度
- 国税庁 タックスアンサー No.2040 予定納税
- 国税庁 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
- 国税庁 タックスアンサー No.9204 にせ税理士にご注意
※本記事の例は架空のもので、分担・連絡の手段・料金は弊所の場合です。税理士事務所ごとに進め方は違います。
この記事のテーマで使える道具・専門ページ
専門ページ個人事業主の税務顧問 (頼めること)→この記事の内容、私の場合は? — 普段お使いの AI に相談
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Gemini など、ほかの AI に貼り付けて使えます
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