「出張日当は非課税で取り放題」は本当か — 旅費規程で非課税になる範囲、財務省調査の相場、一人社長の日当が給与になる境目
「出張のたびに日当を出せば、非課税で社長の手取りが増える」— よく聞く話ですが、非課税なのは「その旅行に通常必要な範囲」だけです。旅費規程で非課税になる条件、財務省の調査にみる相場、一人社長や個人事業主の日当がどこから給与や経費外になるかを、法令と通達、審判所の判断に沿って整理していきましょう。
この記事の要点
- 役員や従業員の出張に伴う日当は、その旅行に通常必要とされる費用に充てる範囲なら所得税が非課税で、会社の経費にもなる。範囲を超える部分は給与(所得税法9条1項4号)
- 範囲の判定は、役員と従業員の全員を通じて適正なバランスが保たれた基準で計算されているか、同業種・同規模の他社が一般に支給する額に照らして相当か、の2点。財務省の調査では、日当を支給する企業の平均額は1日2,621円
- 一人社長の会社も扱いは同じで、規程・記録・相当な額の3つで判定される。業務のために使ったことが明らかでない旅費名義の支給は役員給与で損金にならず(法人税基本通達9-2-9)、個人事業主本人への日当は必要経費にならない
まず結論 — 非課税なのは「通常必要な範囲」、超えた分は給与
出張の交通費・宿泊費・日当として会社が支給する金品は、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられる範囲内なら、受け取る役員・従業員の所得税が非課税です(所得税法9条1項4号)。範囲は、旅行の目的・目的地・行路・期間の長短・宿泊の要否・旅行者の職務内容と地位などから判定するものとされています。
原則
出張の日当は、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられる範囲内なら、受け取る側の所得税が非課税です。
所得税法9条1項4号・所得税基本通達9-3
ただし
通常必要とされる範囲を超える部分は非課税にならず、勤務先から受ける給与と同じく給与所得の収入金額になります。
所得税基本通達9-4
旅費などの名義で役員に支給したもののうち業務のために使ったことが明らかでないものは役員給与として扱われ、定期同額給与などに当たらない限り会社の損金になりません。
法人税法34条1項・法人税基本通達9-2-9
会社の側では、業務のために使ったことが明らかな旅費は役員給与に当たらず、旅費交通費として経費になります(法人税法22条3項2号・法人税基本通達9-2-9)。
「非課税で取り放題」ではなく、非課税なのは、その旅行に通常必要とされる範囲内の金品だけです(所得税基本通達9-3)。範囲を超える部分は給与所得になり、役員の所得税と会社の源泉徴収の対象になります(所得税基本通達9-4・所得税法183条1項)。
非課税の範囲の判定 — 2つのものさしと、財務省の調査にみる相場
国税庁の通達は、範囲内かどうかの判定で2つの事項を勘案するとしています(所得税基本通達9-3)。1つは、その支給額が、役員と使用人の全員を通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものかどうか。もう1つは、同業種・同規模の他の使用者が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるかどうかです。
2つ目のものさしの参考になるのが、財務省が民間企業の旅費規程について行ったアンケートです。国内出張の日当を支給している企業について、規程の最低額・最高額と平均額が集計されています。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 各社の日当の最低額の平均 | 1日1,780円 |
| 各社の日当の最高額の平均 | 1日3,786円 |
| 各社の日当の平均額の平均 | 1日2,621円 |
ご自身の会社の規程の日当を、この表と並べてみましょう。この水準から大きく離れた日当、たとえば1日1万円や2万円を一律に支給していると、同業種・同規模の他社に照らして相当とは言いにくく、超える部分が給与と見られやすいと考えています。役職で差を付けるのは自然ですが、役員だけが極端に高い段になると、全員を通じたバランスの点で説明が難しくなると考えています。
一人社長・個人事業主の日当 — 規程があっても給与や経費外になる境目
一人社長の会社でも、旅費規程を定めて日当を支給することはできると考えています。ただ、全員を通じたバランスというものさしが働きにくい分、業務のために使ったことが明らかかどうか、額が相当かどうかが、より直接に問われます。業務との関係が説明できない旅費は役員給与になり、定期同額給与でも事前確定届出給与でもないため損金になりません(法人税法34条1項・法人税基本通達9-2-9)。
実際に、会社の代表者が青年会議所の会合に出席した交通費・宿泊費・日当が争われた例があります(国税不服審判所 平成27年7月28日裁決・裁決事例集No.100)。社会通念上客観的に事業の遂行上必要とは認められず、代表者が個人的に負担すべき費用だとして、役員給与に当たり損金にならず、源泉所得税の対象にもなると判断されました。規程の有無ではなく、その出張が会社の業務かどうかが見られています。ご自身の出張の記録を見返して、業務との関係を一言で説明できるでしょうか。
消費税と手続き — 国内の日当は帳簿だけで仕入税額控除、海外は対象外
消費税では、国内出張の交通費・宿泊費・日当のうち、その旅行について通常必要と認められる部分が課税仕入れになります(消費税法施行規則15条の4第2号)。この課税仕入れは、インボイスがなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を受けられます。請求書等の交付を受けることが困難な課税仕入れとして、帳簿にその旨など一定の事項を記載していることが条件です(消費税法施行令49条1項1号ニ)。通常必要な範囲かどうかは、所得税の非課税の範囲と同じ考え方で判定します(消費税法基本通達11-6-4)。
日当を受け取る社員にインボイスを求める必要はないので、精算の手間は増えません。ただし、帳簿だけで足りるのは役員や従業員に支給する旅費・日当で、会社が交通機関やホテルに直接支払う分は、原則として適格請求書等と帳簿の両方の保存が必要です。海外出張のために支給した旅費・宿泊費・日当は、原則として課税仕入れになりません。帳簿に旅費である旨を書く欄があるか、いまの会計ソフトの設定を一度見てみましょう。
旅費規程を作って運用する4つの段取り
出張の定義を決める
片道の距離や日帰り・宿泊の区分で、どこからが出張かを決める
役職ごとの日当を決める
役員と従業員の全員を通じて適正なバランスを保ち、同業種・同規模の他社の水準と比べる
決議して文書にする
株主総会や取締役の決定で定め、支給の根拠として保存する
出張のたびに記録を残す
日付・行き先・用件・相手先と、交通費・宿泊費の実費。帳簿には日当の額と旅費である旨を書く
よくある誤解とまとめ — 規程は「取り放題」の免許ではない
出張日当は、規程に基づいて相当な額を、業務の出張に限って支給している限り、受け取る側は非課税で会社は経費にでき、消費税の仕入税額控除も受けられる、使いやすい仕組みです。一方で「取り放題」の免許ではなく、額と記録が伴わない部分は給与に戻ります。規程を作るときは、出張の定義と日当の段を、同業の水準と自社の出張の実態に合わせて決めてください。実行の際は必ず事前にご相談ください。
出典
- 国税庁 所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)・9-4(非課税とされる旅費の範囲を超えるものの所得区分)
- 国税庁 法人税基本通達9-2-9(債務の免除による利益その他の経済的な利益)
- 国税庁 タックスアンサー No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い
- 国税庁 消費税法基本通達11-6-4(通常必要であると認められる出張旅費、宿泊費、日当等)
- 国税不服審判所 平成27年7月28日裁決(裁決事例集No.100) 代表者の会合への出席に係る旅費・日当を役員給与とした事例
- 財務省 民間企業における出張旅費規程等に関するアンケート 報告書(国内出張の日当の支給額)
- e-Gov法令検索 所得税法9条(非課税所得)・36条(収入金額)・37条(必要経費)・183条(源泉徴収義務)
- e-Gov法令検索 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)・34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 消費税法施行令49条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
- e-Gov法令検索 消費税法施行規則15条の4(請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れ)
※本記事の取扱いは、令和8年4月1日現在の法令・通達によるものです。財務省のアンケートの数字は、報告書の集計値をそのまま載せています。
※合同会社の場合: 本文の「株主総会の決議」は株式会社の場合の手続きです。合同会社の業務は、社員が2人以上なら、定款に別段の定めがある場合を除き社員の過半数で決めます(会社法590条2項)。業務を執行する社員を定款で定め、その社員が2人以上あるときは、定款に別段の定めがある場合を除き業務執行社員の過半数で決めます(会社法591条1項)。定款を変更して報酬に関する定めを置く場合は、定款に別段の定めがある場合を除き総社員の同意が必要です(会社法637条)。いずれの場合も、同意書・決定書の形で日付と内容を書面に残します。税務の届出などで「株主総会等の決議」が求められる場面では、合同会社ではこの決定・同意がこれに当たります(法人税法施行令69条3項)。
この記事の内容、私の場合は? — 普段お使いの AI に相談
押すと、この記事の要点が質問文になって、選んだ AI に渡ります。
Gemini など、ほかの AI に貼り付けて使えます
AI によってはそのまま回答が始まります。回答は各 AI サービスによるもので、当事務所の見解ではありません。
※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。