役員退職金はいくらまで損金になるか — 功績倍率法の目安と、受け取る側の退職所得の税額(役員5年以下の特例)
一人社長が自分に退職金を払うとき、いくらまでが会社の損金になるのか。法令に上限の金額はなく、原則として「相当な額」を超えた部分が損金から外れます。目安になる功績倍率法の計算、損金にする時期、受け取る側の退職所得の税額と、役員の勤続5年以下で外れる2分の1の特例を整理します。
この記事の要点
- 損金から外れるのは原則「不相当に高額な部分」で、業務に従事した期間・退職の事情・同種の事業を営む類似規模の法人の支給状況に照らして判定される(法人税法34条2項・施行令70条2号)。利益に連動させて額を決めると業績連動給与に当たり、一人社長の同族会社では全額が損金にならない(法人税法34条1項・5項)
- 目安は功績倍率法「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」。月50万円・20年・倍率3.0で3,000万円。類似法人の最高値3.0を基準にした判定を合理的とした裁判例がある(東京地裁昭和55年5月26日判決)
- 受け取る側は退職所得で、20年勤続・3,000万円なら所得税・住民税は約324万円(弊所試算)。役員としての勤続が5年以下なら、役員期間に対応する退職金は2分の1課税が使えない
損金の線 — 法令に上限はなく、原則は「相当な額」を超えた部分が外れる
役員に払う退職金は、原則として、不相当に高額な部分を除いて損金になります(法人税法34条2項)。不相当に高額かどうかは、その役員が業務に従事した期間、退職の事情、同種の事業を営む類似規模の法人の支給状況に照らして、相当と認められる額を超えるかで判定します(法人税法施行令70条2号)。金額や倍率の上限は法令にありません。
ただし、利益などの業績を示す指標を基礎に額を算定する退職金は業績連動給与に当たり、相当な額かどうかではなく、業績連動給与の要件を満たすかで判定されます(法人税法34条1項・5項)。同族会社は、同族会社以外の法人に完全に支配されている場合を除いて業績連動給与を損金にできないため、一人社長の同族会社が利益に連動させて額を決めると、相当な額の範囲でも全額が損金になりません(法人税法34条1項3号)。退職直前の報酬月額を基礎に、勤続年数と職責に応じた倍率を掛ける功績倍率法の退職金は、業績連動給与に当たりません。
また、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることにより払う退職金は、全額が損金になりません(法人税法34条3項)。
実務で目安に使われるのが功績倍率法です。裁判例は、同種の事業を営む類似規模の法人の役員退職金から功績倍率を求め、その最高値3.0を基準に相当額を判断した方法を合理的としました(東京地裁昭和55年5月26日判決)。
| 最終報酬(月額) | 勤続年数 | 功績倍率 | 退職金の目安 |
|---|---|---|---|
| 50万円 | 20年 | 3.0 | 3,000万円 |
| 50万円 | 20年 | 2.0 | 2,000万円 |
| 30万円 | 10年 | 3.0 | 900万円 |
| 30万円 | 10年 | 2.0 | 600万円 |
倍率は役職で差をつけ、代表者より平の取締役や監査役を低くするのが自然だと考えています。倍率そのものより、同種の事業を営む類似規模の法人と比べて説明できるかが問われます。
損金にする時期と手続き — 株主総会で額を決めた事業年度
原則
退職金は、株主総会の決議などで額が具体的に確定した日の属する事業年度の損金になります。
法人税基本通達9-2-28
ただし
支払った事業年度にその支払額を損金経理したときは、その年度の損金として認められます。
法人税基本通達9-2-28
一人社長の会社でも、株主総会で退職金の額を決め、議事録を残します。額の計算根拠(最終報酬月額・勤続年数・倍率)を議事録か内規に書いておくと、相当性の説明がしやすくなります。
受け取る側の税金 — 退職所得は2分の1、役員5年以下なら役員期間の分は全額
退職金は退職所得として、ほかの所得と分けて課税されます。勤続年数に応じた退職所得控除(20年以下は1年40万円、20年超は800万円+1年70万円)を引き、残りの2分の1が課税の対象です(所得税法30条2項・3項)。勤続年数の1年未満の端数は1年に切り上げます(所得税法施行令69条)。
| 退職金と勤続年数 | 退職所得控除 | 課税される退職所得 | 所得税(復興特別所得税を含む) | 住民税(年額) | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 3,000万円・20年 | 800万円 | 1,100万円 | 2,137,900円 | 1,100,000円 | 26,762,100円 |
| 1,000万円・10年 | 400万円 | 300万円 | 206,700円 | 300,000円 | 9,493,300円 |
| 1,000万円・役員5年(2分の1なし) | 200万円 | 800万円 | 1,229,200円 | 800,000円 | 7,970,800円 |
勤続20年で3,000万円を受け取ると、所得税・住民税の合計は約324万円で、手取りは約2,676万円です。報酬として受け取る場合より、2分の1課税と控除の分だけ税が軽くなります。
表の住民税は、他の所得と分けて、退職金を受け取る年の1月1日の住所地の市区町村が課す分離課税の所得割です(地方税法328条)。給与の住民税のように前年の所得で翌年に課されるのではなく、会社が支払のときに天引きして市区町村に納める形(特別徴収)で、表の額はその税額の見込みです。
受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に出します(所得税法203条1項)。出していないと退職金の額に20%(復興特別所得税を含めて20.42%)の源泉徴収がされ、確定申告で精算することになります(所得税法201条3項)。
一人社長が決める順番 — 原資・時期・額
1. 原資 — 退職金を払う年度の利益と現金を見積もる。退職金で大きな赤字が出る年度の決算書は、融資先にも見られる
2. 時期 — 退任か分掌変更か、どの事業年度に決議して払うかを決める。決議の事業年度と支払の事業年度を分けるなら、損金にする年度を決めておく
3. 額 — 功績倍率法で目安を出し、同種の事業を営む類似規模の支給状況や勤続年数・退職の事情から説明できる額に置く
小規模企業共済や他の退職金を前年以前に受け取っていると、退職所得控除が調整されることがあります(所得税法30条6項)。出口を複数持つ方は、受け取る年を分けるかどうかも含めて設計してみてください。
まとめ — 損金の線は「相当な額」、功績倍率法はその目安
損金の線は法令の金額ではなく「相当な額」で、功績倍率法はその目安です。受け取る側は2分の1課税で税が軽いぶん、役員5年以下の特例と受給の申告書を押さえておく必要があります。ご自身の最終報酬月額と勤続年数で、まず目安の額を計算してみてください。
※本記事の税額は、令和8年分の所得税・復興特別所得税と住民税(所得割10%)だけで計算した弊所の試算です。退職金の相当額は個別の事情で判断されるもので、表の倍率は例です。
出典
- 国税庁 役員の退職金の損金算入時期
- 国税庁 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 退職手当等に対する源泉徴収
- 裁判所 東京地方裁判所昭和55年5月26日判決(役員退職給与の相当額と功績倍率)
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令70条(過大な役員給与の額)
- 国税庁 法人税基本通達9-2-28(役員に対する退職給与の損金算入の時期)・9-2-32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
- e-Gov法令検索 所得税法30条(退職所得)・201条(徴収税額)・203条(退職所得の受給に関する申告書)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令69条(退職所得控除額に係る勤続年数の計算)
※合同会社の場合: 本文の「株主総会の決議」は株式会社の場合の手続きです。合同会社の業務は、社員が2人以上なら、定款に別段の定めがある場合を除き社員の過半数で決めます(会社法590条2項)。業務を執行する社員を定款で定め、その社員が2人以上あるときは、定款に別段の定めがある場合を除き業務執行社員の過半数で決めます(会社法591条1項)。定款を変更して報酬に関する定めを置く場合は、定款に別段の定めがある場合を除き総社員の同意が必要です(会社法637条)。いずれの場合も、同意書・決定書の形で日付と内容を書面に残します。税務の届出などで「株主総会等の決議」が求められる場面では、合同会社ではこの決定・同意がこれに当たります(法人税法施行令69条3項)。
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