個人事業主の出張・旅費は経費になるか — 自分への日当は払えない、交通費・宿泊費の実費の範囲、家族同伴や観光を兼ねた旅行の按分、領収書の無い交通費の記録
「法人は出張のたびに日当が出せると聞いたけれど、個人事業主の自分はどうなるのだろう」— 出張や遠方の現場が多い個人事業主の方から、よく聞く疑問だと見ています。経費になる実費の範囲、日当が払えない理由、家族同伴や観光を兼ねた旅行の分け方、領収書の無い交通費の残し方を、条文と通達に沿って弊所で整理しました。
この記事の要点
- 業務のための出張にかかった交通費・宿泊費・現地の移動費は、実費が業務について生じた費用として必要経費になる(所得税法37条1項)
- 非課税の日当は給与所得のある役員・従業員が受け取るもので、事業主本人への日当は必要経費にならない。出張先での一人の食事代も生活のための支出(家事費)で、経費にならない(所得税法9条1項4号・45条1項1号)
- 家族同伴や観光を兼ねた旅行は、業務に必要な部分を明らかに区分できた分だけが必要経費。領収書の無い電車代やバス代は、日付・区間・金額・用件を帳簿に記録して保存する(所得税法施行令96条1号・所得税法148条1項・232条1項)
まず結論 — 実費は必要経費、自分への日当と一人の食事は経費にならない
必要経費になるのは、売上を得るために直接かかった費用と、その年の販売費・一般管理費など業務について生じた費用です(所得税法37条1項)。取引先への訪問や現場の仕事、展示会や研修のための出張にかかった交通費・宿泊費・現地の移動費は、この費用に当たり、旅費交通費として必要経費になります。
一方、法人の役員や従業員が受け取る出張の日当は、その旅行について通常必要と認められる範囲なら所得税が非課税で、会社の側では経費です(所得税法9条1項4号)。個人事業主本人には、この形がありません。自分への日当は、事業主の財布の中でお金を移しただけなので、業務について生じた費用には当たらないと考えています。出張先で一人で食べる食事代も、生活のための支出なので必要経費になりません(所得税法45条1項1号)。
| 支出 | 個人事業主本人 | 法人の役員・従業員 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 交通費・宿泊費・現地の移動費の実費 | 業務について生じた費用として必要経費 | 会社の経費。本人は通常必要な範囲なら非課税 | 所得税法37条1項・9条1項4号 |
| 日当(定額の手当) | 自分に払っても必要経費にならない | 規程に基づき通常必要な範囲なら会社の経費で、本人は非課税 | 所得税法9条1項4号 |
| 出張先での一人の食事 | 生活のための支出(家事費)で必要経費にならない | 日当でまかなう | 所得税法45条1項1号 |
| 従業員に払う日当 | 規程に基づき通常必要な範囲なら必要経費。従業員は非課税 | 同じ | 所得税法37条1項・9条1項4号・所得税基本通達9-3 |
原則
出張の交通費・宿泊費・現地の移動費の実費は、業務について生じた費用として必要経費に算入します。
所得税法37条1項
ただし
自分一人の食事代や、観光・私用の部分は家事上の経費で、必要経費に算入しません。
所得税法45条1項1号
従業員に旅費規程に基づいて払う日当は、その旅行に通常必要とされる範囲なら必要経費になり、受け取る従業員の側は非課税です。
所得税法37条1項・9条1項4号・所得税基本通達9-3
自分への日当が払えない理由 — 非課税の日当は「給与所得者」の決まり
日当が非課税になる根拠は、給与所得を有する人が勤務する場所を離れて職務のために旅行した場合に受け取る金品のうち、その旅行について通常必要と認められるものを非課税とする規定です(所得税法9条1項4号)。範囲内かどうかは、役員と従業員の全員を通じてバランスの取れた基準で計算されているか、同業種・同規模の他社の支給額に照らして相当か、の2点で判定します(所得税基本通達9-3)。つまり、払う側(会社)と受け取る側(役員・従業員)が別の人であることが前提の仕組みです。
非課税の日当の対象は給与所得を有する人なので、自分の事業から給与を受け取らない個人事業主本人には当てはまりません(所得税法9条1項4号)。自分への日当は売上から生活費を取り分けたのと同じなので、業務について生じた費用には当たらないと考えています。「旅費規程を作れば個人事業主も日当を出せる」という話は、法人の社長の話を個人に当てはめたものと見ています。
一人社長の会社で日当を出す条件や相場は、このサイトの出張日当の非課税の範囲の記事にまとめています。規程の作り方は出張旅費規程のひな形の記事をご覧ください。
従業員を雇っている個人事業主なら話は別です。従業員の出張に旅費規程に基づいて日当を払えば、その旅行に通常必要とされる範囲で必要経費になり、受け取る従業員の側は非課税です(所得税法37条1項・9条1項4号・所得税基本通達9-3)。規程は事業主本人を除く従業員の全員に同じ基準で適用し、出張のたびに日付・行き先・用件の記録を残しておきましょう。
家族同伴・観光を兼ねた旅行 — 業務の部分だけを明らかに区分する
出張に家族を連れて行った、仕事のあとに1泊延ばして観光した。こうした旅行の費用は、仕事と私用の両方にかかわる支出(家事関連費)です。必要経費になるのは、主たる部分が業務の遂行上必要で、必要な部分を明らかに区分できる場合の、その部分だけです(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条1号)。区分の判定は、業務の内容・経費の内容・家族の構成などを総合して行います(所得税基本通達45-1)。
まず、旅程を日ごとに書き出し、業務の予定と相手を書き入れてみてください。業務の日と私用の日が紙の上で分かれていれば、費用の区分は半分終わっています。
業務の部分が旅行全体の半分以下でも、明らかに区分できればその部分を必要経費に算入して差し支えないとされています(所得税基本通達45-2)。逆に、業務の予定が1件だけで残りが観光の旅行は、区分の根拠が弱くなると見ています。配偶者が従業員として同行し、実際に業務に従事した場合は、その分の交通費・宿泊費も業務について生じた費用として必要経費になります(所得税法37条1項)。同行の事実と業務の内容を説明できる記録を残しておきましょう。
仕事と私用が混ざる旅行の記録
旅程表を残す
日ごとに、業務の予定・訪問先・相手の名前と、観光や私用の日を分けて書いておきましょう
領収書を日と人で分ける
宿泊の明細は業務の日の分と延泊の分、本人の分と家族の分に分けて保存する
帳簿には業務の分だけ
私用の分は事業主貸にして、必要経費に入れない(所得税法施行令96条1号)
領収書の無い交通費 — 日付・区間・金額・用件を帳簿に残せば足りる
電車代やバス代は、領収書が出ないことがほとんどです。所得税法は、必要経費の条件として領収書の保存を求めてはいません。求めているのは、取引を帳簿に記録し、帳簿と書類を保存することです(所得税法148条1項・232条1項)。青色申告の方は正規の簿記の原則に従って取引を記録し(所得税法施行規則57条1項)、白色申告の方も簡易な方法で記録して保存します(所得税法232条1項)。
電車代やバス代は、日付・乗った区間・金額・用件(訪問先)を帳簿に書いておけば、領収書が無くても必要経費として説明できると考えています。交通系ICカードの利用履歴や、経路検索で出した運賃の画面も、記録の裏づけとして保存しておきましょう。金額が分からないときは、経路検索で運賃を確かめてみてください。新幹線や飛行機、タクシー、宿泊は領収書や明細が出るので、そちらは必ず保存しておきましょう。
去年の出張の経費に、自分の食事代や家族の分が混ざっていないか、一度確かめてみてください。出張の多い方ほど、帳簿の元になる記録(旅程表・ICカードの履歴)を残す習慣が、確定申告のときに効きます。旅費の仕分けを含めて確定申告をまとめて任せたい方は、確定申告のご依頼のページで進め方をご覧ください。準備の抜けを確かめたい方は、個人事業主の決算・確定申告準備診断を試してみてください。
出典
※この記事は所得税の必要経費の扱いを整理したもので、消費税の課税事業者の方は、仕入税額控除の側の要件(インボイスや帳簿の保存)を別に確かめてください。
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