個人事業主の飲食代・接待交際費は経費になるか — 取引先との会食・同業者の会合・一人の食事の線引き、法人の「1人1万円」の線が個人に無い理由と残しておく記録
「取引先と食事をした代金は、どこまで経費に入れていいのだろう」— 確定申告の帳簿をつけていて、飲食の領収書で手が止まる個人事業主の方は少なくないと見ています。相手と目的でどう分かれるか、法人の交際費の決まりと何が違うか、残しておく記録は何かを、条文と通達に沿って整理します。
この記事の要点
- 取引先との会食や同業者の会合の飲食代は、業務について生じた費用として必要経費になる。一人の食事や家族との食事は生活のための支出(家事費)で、必要経費にならない(所得税法37条1項・45条1項1号)
- 個人事業主には、法人の交際費等の損金不算入制度も「1人1万円」の線も無い。1万円以下でも相手と目的が業務でなければ経費にならず、1万円を超えても業務の飲食なら必要経費になる(所得税法37条1項・租税特別措置法61条の4第6項・租税特別措置法施行令37条の5第1項)
- 分かれ目は記録。飲食の年月日・相手の氏名と関係・人数・目的を残し、業務に必要だったことを示せるようにしておく。青色申告の帳簿は、必要経費にならない支出をそのつど除いて記録する決まりになっている(所得税法施行令96条2号・所得税法施行規則57条2項)
まず結論 — 業務について生じた飲食代は必要経費、生活のための食事は家事費
必要経費になるのは、売上を得るために直接かかった費用と、その年の販売費・一般管理費など業務について生じた費用です(所得税法37条1項)。取引先を接待した会食や、受注に向けた打ち合わせの飲食代はこの費用に当たり、接待交際費や会議費として必要経費になります。一方、食費のような家事上の経費(家事費)は必要経費に算入しません(所得税法45条1項1号)。
個人事業主の飲食代には、法人のような交際費の上限はありません。あるのは「業務について生じた費用か、生活のための支出か」という線だけです。だから同じ1万円の会食でも、相手と目的で答えが変わります。値段ではなく、誰と何のために飲食したかで決まると覚えておいてください。
原則
食費など家事上の経費と、これに関連する経費は、事業所得の計算上必要経費に算入しません。
所得税法45条1項1号
ただし
取引先との会食のように、業務について生じた費用に当たる飲食代は必要経費に算入します。
所得税法37条1項
仕事と私用の両方にかかわる支出(家事関連費)は、主たる部分が業務の遂行上必要で、必要な部分を明らかに区分できる場合にその部分が必要経費になります。青色申告なら、取引の記録などに基づいて業務の遂行上直接必要だったことが明らかにされる部分も必要経費です。
所得税法施行令96条1号・2号
相手と場面で分ける — 取引先・同業者・従業員・家族・一人
飲食代の扱いは、金額ではなく相手と場面で決まります。まず、去年の飲食の領収書を相手別に分けてみてください。
| 相手・場面 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 取引先・見込み客との会食、受注に向けた打ち合わせの飲食 | 業務について生じた費用として必要経費(接待交際費・会議費) | 所得税法37条1項 |
| 同業者の会合や勉強会のあとの懇親会 | 情報交換や仕事の紹介など業務のための集まりなら必要経費。親睦だけの集まりは家事費 | 所得税法37条1項・45条1項1号 |
| 従業員の慰労の食事会 | 業務について生じた費用として必要経費(福利厚生費) | 所得税法37条1項 |
| 家族との食事、自分一人の食事(出張先の昼食を含む) | 生活のための支出(家事費)で必要経費にならない | 所得税法45条1項1号 |
取引先との飲食でも、同席者の全員分が経費になるわけではありません。二次会に友人が合流した分や、配偶者を同伴した分は、業務に必要な部分を明らかに区分できなければ必要経費から外れます(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条1号)。区分の判定は、業務の内容・経費の内容・家族や使用人の構成などを総合して行います(所得税基本通達45-1)。家賃や通信費のような按分の考え方は家事按分の記事にまとめています。
法人の「1人1万円」の線は個人事業主には無い — 交際費の制度の違い
法人税には交際費等の損金不算入の制度があります。資本金1億円以下の法人が支出した交際費等は、接待飲食費の50%に相当する額を超える部分か、年800万円を超える部分の、どちらかを選んで損金不算入にします(租税特別措置法61条の4第1項・2項)。さらに、参加者1人あたり1万円以下の飲食費は、年月日や相手などを書いた書類を保存していれば、この交際費等から外れます(租税特別措置法61条の4第6項・8項・租税特別措置法施行令37条の5第1項)。
個人事業主の所得税には、この制度がありません。飲食代が必要経費になるかは、業務について生じた費用か家事費かで決まるだけで、1人あたりの金額の線はありません(所得税法37条1項・45条1項1号)。法人の線を借りて、その額以下なら経費にして大丈夫だとか、超えたら経費にならないと考えるのは、どちらも誤りです。
残す記録と帳簿のつけ方 — 領収書の余白と帳簿の記録
青色申告の方は、取引を正規の簿記の原則に従って整然と明瞭に記録し、帳簿書類を保存する義務があります(所得税法148条1項・所得税法施行規則57条1項)。このとき、必要経費に算入されない支出を含む取引は、そのつどその部分を除いて記録することになっています(所得税法施行規則57条2項)。友人が合流した分を事業主貸に分けるのは、申告のときではなく帳簿につける段階の作業です。白色申告の方も、取引を帳簿に記録して保存する義務は同じようにあります(所得税法232条1項)。
記録で示せない飲食代が外れる形は、だいたい決まっています。
飲食の領収書を受け取ったら
その場で書く
領収書の余白に、相手の氏名(会社名)と事業との関係・人数・目的を書く
私用の分を分ける
友人や家族の分、二次会の私的な分は事業主貸にして、経費に入れない(所得税法施行規則57条2項)
帳簿に記録して保存する
青色は仕訳帳と総勘定元帳に記録し、領収書とともに保存する(所得税法148条1項・所得税法施行規則58条1項)
去年の飲食の領収書のうち、相手と目的をその場で書いたものはどれくらいあるでしょうか。経費にできる額を増やす工夫より、相手・人数・目的の一言を残す習慣の方が、確定申告のときに効くと考えています。飲食代の仕分けを含めて確定申告をまとめて任せたい方は、確定申告のご依頼のページで進め方をご覧ください。準備の抜けを確かめたい方は、個人事業主の決算・確定申告準備診断を試してみてください。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法37条(必要経費)・45条(家事関連費等の必要経費不算入等)・148条(青色申告者の帳簿書類)・232条(事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令96条(家事関連費)
- e-Gov法令検索 所得税法施行規則57条(取引の記録等)・58条(取引に関する帳簿及び記載事項)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法61条の4(交際費等の損金不算入)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令37条の5(交際費等の範囲)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行規則21条の18の4(交際費等の損金不算入)
- 国税庁 所得税基本通達45-1(主たる部分等の判定等)・45-2(業務の遂行上必要な部分)
- 国税庁タックスアンサー No.2210 必要経費の知識
- 国税庁タックスアンサー No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
※本記事の例は線引きの考え方を示すためのもので、実際の扱いは相手との関係や飲食の目的で変わります。
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