一人社長・従業員のいない個人事業主は労災保険に入れるか — 中小事業主の特別加入は従業員のいる事業向け、一人なら一人親方(建設など)かフリーランスの特別加入、保険料は給付基礎日額で選ぶ
「社長は労災に入れないと聞いたけれど、従業員のいない自分はどうなるのか」。一人で会社をしている社長や従業員のいない個人事業主が、仕事中のけがに備えて労災保険に入れるのかを、特別加入の入口と保険料の決まり方で整理します。
この記事の要点
- 労災保険は労働者のための保険で、社長や個人事業主本人は本来の対象ではありません。例外が任意の「特別加入」で、中小事業主等・一人親方等・特定作業従事者などの入口があります(労働者災害補償保険法33条)
- 中小事業主等の入口は、労働者を使う事業の事業主が労働保険事務組合に事務を委託していることが前提です(労働者災害補償保険法33条1号)。従業員のいない一人社長・個人事業主は、建設などの一人親方等か、企業から業務委託を受けるフリーランス(特定フリーランス事業)の入口を使います(労働者災害補償保険法33条3号・労働者災害補償保険法施行規則46条の17)
- 保険料は、3,500円〜25,000円から選ぶ給付基礎日額×365日×料率です。フリーランスの料率は1000分の3で、給付基礎日額1万円なら年10,950円。個人事業主が払う保険料は社会保険料控除になります(所得税法74条2項・所得税法施行令208条1号)
まず結論 — 中小事業主等は従業員のいる事業向け、一人なら「一人親方」か「フリーランス」
| 入口 | 誰が入れるか | 加入の窓口 | 料率(年) |
|---|---|---|---|
| 中小事業主等(第1種) | 労働者を常時使う中小事業主と、その事業に従事する家族・役員。法人なら代表者が加入者 | 労働保険事務組合に労働保険事務を委託して申請 | その事業の労災保険率から、二次健康診断等給付に要した費用を考慮して厚生労働大臣が定める率を減じた率 |
| 一人親方等(第2種) | 建設・運送・林業・漁業・柔道整復師・歯科技工士など省令で定める事業を、労働者を使わずに行う人 | 業種ごとの特別加入団体を通じて申請 | 建設17/1000・運送11/1000・柔道整復師3/1000など |
| 特定フリーランス事業(第2種) | 企業などから業務委託を受ける特定受託事業者(従業員のいない個人と、代表者1人だけで従業員のいない法人) | 労働局長の承認を受けた特別加入団体を通じて申請 | 3/1000 |
労災保険は労働者の業務災害・通勤災害を補償する保険で、事業主や法人の代表者は本来の対象ではありません。厚生労働省のしおりでは、労働者以外でも、業務の実情や災害の発生状況などからみて特に労働者に準じて保護することが適当な一定の人に、特別に任意加入を認めているのが特別加入制度だと説明されています。入口は、中小事業主等、一人親方その他の自営業者、特定作業従事者、海外派遣者に分かれます(労働者災害補償保険法33条)。
従業員のいない一人社長・個人事業主にとっての分かれ目は、中小事業主等の入口が、労働者を使用する事業の事業主で労働保険事務組合に事務を委託する人に限られていることです(労働者災害補償保険法33条1号)。厚生労働省のしおりには、1年間に労働者を使用する日数が100日未満の場合は中小事業主等としての特別加入はできないと書かれています。その場合でも、一人親方等や特定作業従事者の加入要件を満たせば、そちらで加入できます。
中小事業主等の特別加入 — 従業員を雇い、事務組合に委託していることが前提
中小事業主等の特別加入は、常時使用する労働者の数が業種ごとの上限以下の事業主が、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託していることが要件です(労働者災害補償保険法33条1号)。上限は原則として300人以下で、金融業・保険業・不動産業・小売業は50人以下、卸売業・サービス業は100人以下です(労働者災害補償保険法施行規則46条の16)。事業主が法人のときは代表者が加入者になり、家族従事者や代表者以外の役員も含めて加入します(労働者災害補償保険法33条1号・2号)。
政府の承認を受けると、これらの人は労働者とみなされて給付を受けられます(労働者災害補償保険法34条1項1号)。給付基礎日額は、その事業の労働者の賃金の額などを考慮して厚生労働大臣が定める額です(労働者災害補償保険法34条1項3号)。保険料を滞納している期間中の事故や、事業主の故意・重大な過失による事故は、給付の全部または一部が行われないことがあります(労働者災害補償保険法34条1項4号)。
従業員を1人も雇っていない一人社長は、労働者を使用する事業の事業主に当たらないので、この入口には立てません(労働者災害補償保険法33条1号)。将来、従業員を雇って労働保険の手続きをしたときに、事務組合を通じてこちらへ切り替えることになります。
一人親方等とフリーランスの特別加入 — 団体を通じて入る
一人親方等の特別加入は、厚生労働省令で定める種類の事業を労働者を使わずに行うことを常態とする人が対象です(労働者災害補償保険法33条3号)。個人タクシーや貨物運送、建設、漁業、林業、医薬品の配置販売、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師、歯科技工士などが並びます(労働者災害補償保険法施行規則46条の17)。
令和6年11月1日からは、特定受託事業者が企業などから業務委託を受けて行う事業(特定フリーランス事業)がこの一覧に加わりました(労働者災害補償保険法施行規則46条の17第12号)。特定受託事業者とは、従業員を使わない個人と、代表者1人のほかに役員がなく従業員も使わない法人をいいます(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律2条1項)。厚生労働省の案内では、業種・職種を問わず加入でき、消費者からだけ業務委託を受けている方は対象外とされています。
加入は本人が直接申請するのではなく、一人親方等の団体(特別加入団体)が申請して政府の承認を受け、その団体が適用事業の事業主とみなされる仕組みです(労働者災害補償保険法35条1項1号)。保険料を滞納している期間中の事故で給付が制限されることがあるのは、中小事業主等と同じです(労働者災害補償保険法35条1項7号)。
保険料は給付基礎日額で決まる — 3,500円から25,000円の16段階
保険料は、給付基礎日額に365日を掛けた保険料算定基礎額に、事業ごとの保険料率を掛けて計算します(労働保険の保険料の徴収等に関する法律13条・14条)。給付基礎日額は3,500円から25,000円までの16段階から申請し、労働局長が決めます。低くすれば保険料は安くなりますが、休業したときの給付も給付基礎日額に連動して少なくなります。
| 給付基礎日額 | 保険料算定基礎額(年額・給付基礎日額×365日) | 年間保険料(年額・料率3/1000) |
|---|---|---|
| 5,000円 | 1,825,000円 | 5,475円 |
| 10,000円 | 3,650,000円 | 10,950円 |
| 14,000円 | 5,110,000円 | 15,330円 |
| 25,000円 | 9,125,000円 | 27,375円 |
建設業の一人親方は料率が17/1000なので、同じ給付基礎日額1万円でも年62,050円です。料率は業種で大きく違い、加入する事業によって保険料が変わります。
厚生労働省のしおりでは、受けている業務がフリーランス以外の特別加入の事業や作業に当たる場合は、そちらで加入する必要があるとされています。ただし、フリーランスの仕事とほかの特別加入の事業や作業を兼ねている方は、フリーランスで特別加入していても、加入していない事業や作業の業務では給付を受けられません。両方で給付を受けたいときは、それぞれに特別加入する必要があります。
税金の扱い — 個人事業主の保険料は社会保険料控除
特別加入で本人が負担する保険料は、所得税の社会保険料控除の対象で、確定申告でその年に払った全額を所得から引けます(所得税法74条1項・2項・所得税法施行令208条1号)。一人社長の場合は、保険料を会社が負担するか本人が負担するかで扱いが変わるので、加入する前にご相談ください。
まとめ — 一人なら「一人親方」か「フリーランス」の入口で、給付基礎日額を先に決める
従業員のいない一人社長・個人事業主は、中小事業主等の入口ではなく、業種で決まる一人親方等か、企業から業務委託を受けるフリーランスの入口から特別加入します。保険料は給付基礎日額で決まるので、保険料の安さではなく、働けなくなったときにいくら要るかから日額を選んでみてください。
社会保険の全体の仕組みは社会保険料ガイドに、一人社長の会社の社会保険の負担はマイクロ法人のページにまとめています。役員が雇用保険に入れないことと、辞めたときの備えは役員は雇用保険に入れないの記事で確かめてみてください。
※本記事は、令和6年11月1日施行の特別加入保険料率表と、厚生労働省の特別加入制度のしおり(中小事業主等用・一人親方その他の自営業者用)によります。料率と給付基礎日額の段階は改定されることがあります。
出典
- 厚生労働省 労災保険への特別加入
- 厚生労働省 令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました
- 厚生労働省 特別加入保険料率表(令和6年11月1日施行)
- 厚生労働省 特別加入制度のしおり(中小事業主等用)
- 厚生労働省 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)
- 国税庁 社会保険料控除
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法33条(特別加入者の範囲)・34条(中小事業主等の特別加入)・35条(一人親方等の特別加入)
- e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法施行規則46条の16(特別加入者の範囲)・46条の17(一人親方等の事業)
- e-Gov法令検索 労働保険の保険料の徴収等に関する法律13条(第一種特別加入保険料の額)・14条(第二種特別加入保険料の額)
- e-Gov法令検索 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律2条(定義)
- e-Gov法令検索 所得税法74条(社会保険料控除)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令208条(社会保険料の範囲)
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